SS
□欲望
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※24×24設定
抱きしめたい。
キスしたい。
……抱きたい。
今回の山本に課せられた任務は長期戦だった。
三ヶ月。イタリアのしがないアパートでの生活が始まって流れた月日の事だ。
不法性のある薬物を大量に生成し、荒稼ぎをしている組織の裏を取れというのが大まかな業務内容だ。
関係者に事情聴取したり、尾行したり、報告書を作成したり……
どれも地味で苦手な作業ばかり。
それも単独任務で人目をはばかる必要がないので、昨晩は遂に自棄酒をあおってしまった。
「あー……だりぃ…」
現在その報いを特にあらがうこともなく、従順に受けているところだ。
よく軋むシングルベッドに仰向けになって気だるさをやり過ごしながら、遠方で別の任務を遂行している恋人を想った。
「隼人…会いてぇよ…」
汚れた木製の天井に恋人を想い描いた。
満面の笑みを浮かべている。
それがだんだん切なげな瞳で誘う仕草へと変貌し、服を脱ぎ始めた。
しまいには扇情的なポーズで山本を誘惑するに至る。
「やべ……勃った……」
自らの妄想で身体を熱くしていると、突然玄関のドアが開いた。
潜伏先がバレたかと、一瞬ヒヤリとしてベッドから静かに素早く降り立つ。
ベッドの影に隠れ、常備していた刀をゆっくりと鞘から滑らせ、様子を伺っていると、馴染みのある声がした。
「おい、野球バカ。いないのか?」
(……………!!)
それは今の今まで熱望していた恋人の声だった。
足音は寝室へと近づき、愛しい恋人の姿を目で確認するやいなや嬉々として飛び出した。
「隼人!!」
「うお!!!な、いるなら返事くらいしやがれ!びびったじゃねーか!」
三ヶ月ぶりに怒鳴られたが、それすらも心地よい。
「あ!てめえ、任務中に酒飲みやがったな!」
テーブルに散乱する空のビンに目をやり、また怒っている。
「書類もめちゃくちゃに置きやがって…ちっとはまとめろよ。効率悪いだろうが。」
今度はデスクの惨状を見て怒っている。
何だかんだ言って書類を片付けている恋人を無意識に背中から抱きしめていた。
「なっ………」
「隼人……。何で…?」
本当はそんな事どうでも良かったけど、順を追わずに欲望のまま行動してしまうと、恋人の怒りに触れてしまい、思い通りに事が進まない危険性があるのだ。
「俺はお前と違って効率的に仕事が出来るんだよ。早く片付いたから手伝いに来てやったんだ。ありがたく思え!」
「そっか。サンキューな。」
「んだよ。遥々来てやったのに冴えねー返事だな。もっとねぎらえ。」
獄寺の首筋に顔を埋めたまま、山本の自制心は長くは持たなかった。
良い香のする白い肌に舌を這わしてから吸い付つくと、獄寺は甘く喘ぐ。
結局、三ヶ月放置していたお互いの性欲に火が点くのは簡単で、つんけんしていた恋人も、セックスを無抵抗という形で承諾してくれた。
余裕がないので前戯も極めて少なく、性急に接合を果たそうとすると、皺になるから服を脱がせろと要求された。
もう一秒だって待てない。
「じゃ、立ったままで。」
山本は獄寺の両手を壁に付かせて、自らのジッパーを下げた。
2010.05.27