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恋文
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「雲雀さん、話を聞いてください!!」


風紀委員会所有の応接室から綱吉の悲痛な叫び声が聞こえる。


抵抗する綱吉に覆いかぶさり、慣れた手つきで制服のボタンを外しているのは、この部屋の長である雲雀だ。


「や、やだっ…雲雀さん!話を……」


「聞く話なんてないよ。」


雲雀は苛立たしげに、制服のズボンを下着ごと引きずり下ろして、太ももをぐいと左右に押し開いた。


「やめて…くださいっ……誤解なんですっ…うっ…」


恐怖と羞恥に耐え切れず、ソファーに沈む恋人は、とうとう泣きだしてしまった。

雲雀は怒気を含んだ瞳を揺らしてため息をひとつ。


「誤解?君はさっき女子生徒から手紙を受け取って、それからずっとそわそわして……僕が目にした事実に誤りがあるって事?」


そう、事は綱吉が人気のない廊下で渡された、一通のラブレターが引き金となった。

今思い出しただけでも腹立たしい。

綱吉の性格を考えると難しいかもしれないが、恋人がいるのだからもっと強固な姿勢でラブレターごと、その生徒の想いを突っぱねてほしかったと思う。

まあ、その女子生徒は渡すだけ渡して足早に走り去った様にも見えなくはなかったが……

問題はその後だ。気がないのなら、そんな紙切れさっさと捨ててしまえば良いものを丁寧にカバンにしまっていたのが気に入らない。

いや、丁寧なんてもんじゃない。綱吉はわざわざカバンからクリアファイルを取り出して、皺が出来ないように取り計らったのだ。


雲雀はギリリと奥歯を噛みしめ、最後の砦であったボタンの外れたシャツまでも奪い去った。


「あっ………」


太ももの間に割り込む形で雲雀がのしかかっているので、綱吉は身動きがとれず裸体を隠す術を完全に失ってしまった。


「この身体が誰のものか、思い知らせてあげる。」


雲雀は目を細め、綱吉の首筋に食いかかるように、舌を這わした。


「や、止めっ……雲雀さん、あの手紙は…っ…雲雀さんへのものなんです!」


「…………………え?」


甘美な喘ぎ声に混じって、何か聞こえた。

雲雀が静止したので、綱吉は快楽を振り切って言葉を続ける。


「雲雀さんに渡してほしいって、頼まれたんです。…初めは断りましたけど、あの子の目を見たら…本気なんだって分かって…」


だから引き受けたと言うのだろうか…


「綱吉、そうだったとしても、君からそんなものを渡されて、僕はどうしたらいいの?」


「ごめっ…んなさいっ…でも、でも俺っ……」


大粒の涙をボタボタと流しながら、それでも綱吉なりに言い分があるようだ。


しかし、嗚咽でそれ以上言葉を紡ぐ事が出来ない。


そうか………

恋人は泣き虫で臆病だけど、情愛に富むのだ。

雲雀の立場では考えられないが、人の心を大切にする綱吉ならではの行いである。

自らを省みず愚行に走るのだが、そこが愛しいと感じてしまうのだから困ったものだ。

雲雀は目を閉じて、闇の中でため息をまたひとつ。

次に開かれた瞳は穏やかな黒だ。

その変化に気付いた綱吉は、涙で濡れた瞳を切なげに揺らす。


「君は……そうだったね。そういう子だ。」


出来れば、その慈しむ気持ちだろうと何だろうと、全てをこちらに向けてほしいとも思うが、きっと綱吉は不特定多数の人々へ惜しみなく愛情を分け与えるのだろう。

誰一人として、その気持ちをないがしろにする事は許されない。それが綱吉だ。


「ごめんね。言い過ぎたよ。」


「うっ……くっ……ひば…さんっ…」


「その女子生徒には僕からちゃんと断っておくよ。」


(ただし、僕なりのやり方でね。)


ちらりと不穏な空気を見せてから、直ぐに恋人を安心させるためにキスをおくる。


「んっ……んっ……はっ…」


「綱吉、舌出して。」


「んぁっ……んくっ……んんっ」


優しい優しい恋人。

控えめな舌使い。

控えめな喘ぎ声。


何度も角度を変えて、甘い唇を貪る。

ひとしきり口付けを味わい、舌をちゅっと吸うと、ふるふると恋人は震えた。


「寒い?」


「……いいえ。」


「じゃあ、今から抱いていい?」


雲雀は含みのある手つきで、太ももの内側を撫でると、綱吉は息を飲んだ。

そしてパッと頬を紅く染めて、困惑して揺れる胡桃色の瞳をそらした。


「………………………………………はい…」


やがて消え入りそうな声で雲雀の申し出を許諾した。



2010.05.23


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