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□夢幻
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骸が風呂からあがって寝室へ入ると、恋人は古風な浴衣を羽織ってたたずんでいた。
「綱吉くん……?」
明かりも付けずにぼんやりと窓から外を眺めていた恋人は、骸の姿を確認すると駆け寄ってきた。
「骸………」
綱吉がそっと骸の胸に顔を寄せると、浴衣は肩から滑り落ちた。
「つ、綱吉くん…その格好は…」
綱吉の裸体が月明かりに照らされて白くぼんやりと輝いていた。
太陽が月を照らし、その光が綱吉の艶やかな肌を優しく包み込んでいる。
なんとも艶めかしい光景だ。
「骸……抱いて…」
「え……?」
綱吉は小さく囁いてから、骸の手を引き、すぐ後ろにあるベッドへ仰向きに倒れこんだ。
骸も追い掛けるように綱吉に覆いかぶさる。
綱吉は妖艶に目を細めて笑顔を作り、足を絡めてきた。
「……どういう風の吹き回しですか?」
あり得ない展開に、このまま素直に流されるわけにはいかない。
何か裏でもあるのだろうか…
「たまには、こういうのもいいだろ?」
そう言うと挑発的に骸の頬を撫でる。
骸の自制心は今の行為で完全に拭い去られた。
いつもつんけんしている恋人からのお誘いなのだ。
こんなに素敵な夜はこれから先はないかもしれない。
(気が変わらないうちに頂いてしまいましょうか…)
本当に素敵な夜だった…
綱吉の頭から爪先まで、余すところなく、全てを愛せたのだから…
まるで夢のような───
夢………?
何やら胸騒ぎがして開眼すると、寝室にいたはずなのに、リビングの風景が飛び込んできた。
ソファーで眠っていたようだ。
「……そうだ。昨晩綱吉くんの機嫌を損ねて閉め出されて…。」
綱吉が奥手なので、夜の営みがあまり盛んではなく、昨晩は行為を強行しようとしてしまったのだ。
たが、綱吉の逆鱗に触れ、寂しく独り寝を余儀なくされる。
夢にまで見るなんて、欲求不満もそろそろ限界だと、ため息をつき、寝室のドアを恨めしげに見つめるのだった。
2010.05.19