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□歩度
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季節はというと、春から夏へと変わる過渡期で、寒暖の差が激しく、はっきりとしない気候が続いていた。
しかし日の入りが遅くなったのははっきりとしていて、夕方の六時だというのにまだ明るい。
夕映えの西の空を目指し、恋人と肩を並べて帰路に付いているのは山本だ。
いや、正確には肩を並べて歩いた事はなく、獄寺が歩く少し後ろに山本のポジションはある。
手を繋ぎたいとか、せめて肩を並べて歩きたいとか、当初はいろいろとこの願望が叶えられる方法を探ったが、今では半分諦めている。
重要なのは歩く位置ではなく、歩度だ。
例えば、山本が突然解けた靴ひもを結び直すとする。
すると少し前を歩く恋人は、特に声を掛けるわけではないけど、靴ひもが結び終わるまで歩みを止めるのだ。
山本が再び歩きだしたのを確認すると、獄寺も同じく歩きだす。
前方を歩く恋人の影を踏みながら、山本は頬を緩めた。
後方にいる山本に、歩調を合わせているのがとても可愛らしいのだ。
さて、帰路を同じくしていた二人の道は、後数十メートルで別れ道となるのだが…。
東の夕闇に浮かぶ白い月がとても美しく、このまま恋人と別れるのは惜しい気がした。
別れ道で一度獄寺は立ち止まるだろうが、そのまま進めばやがて彼も歩調を合わせてくれるだろう。
今日は二人でゆったりとくつろぎたい。
2010.05.19