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月9
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騙された。

獄寺はテレビの前で動けないでいた。

今日から始まる月九のドラマがUMAを題材にしたものと聞かされて、ドラマに対して滅多に湧かない好奇心がむくりと頭をもたげたというのに、画面に映っているのは濃厚なベッドシーンだった。

初めは謎の飛行物体の目撃というスペクタクルな展開を見せ、多少は興味が注がれたものの、蓋を開けてみれば犯行に使われた決定的な証拠をワイヤーを使い、遠くに飛ばしたというお粗末なトリックがその正体というのだから、興ざめもいいところだ。

興を削がれたところで、このベッドシーンである。

適当な理由を付けてその場を離れたくとも、恋人が手を重ねているのでそれも叶わない。


(……ったく…)


雰囲気作りにこのドラマを利用したとしか思えない所業にため息が出る。

第一話から視聴者を逃すまいと、ベッドシーンも放送ギリギリの白熱ぶりだ。

B級映画の十八番を月九に使うなんて、日本のドラマも落ちたものだ…と、いかにも興味はありませんという顔付きで平然を装っていたのだが、重ねられた山本の手がピクリと動き、心臓が跳ねた。


ちくしょう、何なんだよ。

外付けの平常心など直ぐに外れてしまい、途端に汗ばむ程顔が熱くなるのを感じた。

山本がゆっくりと距離を詰め、ちゅっと耳にキスをするまで、どうしようか迷っていた。

何故なら、山本の作った雰囲気に流されるのは癪だと思っていたから…

しかし、そのままソファーに押し倒されて口付けをせがまれてしまえば、獄寺も彼の首に腕を回すしかない。

なんたって、こんなのんびりとした時間を恋人と送るのは試合のせいで約三週間ぶりなのだから。


(仕方ないから下手なムードに流されてやるよ。)


内心悪態をつきながらも、やがて落ちてくる唇をほんの少し口を開いて、甲斐甲斐しく待つのであった。



2010.05.12


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