復活novel

湯煙の夜 Side・B
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身体中が熱い…
ぐるぐる目が回る……

温泉に浸かりすぎたと後悔しているのは、部屋の隅でぐったりと座り込んでいる山本であった。
男の風呂なんてカラスの行水と同じで、ゆったりと長時間浸かる事なんてまずない。
ただ、今回は露天風呂で見晴らしが良かったのと、獄寺がさっきまでここにいたという事実がいけなかった。
獄寺の裸体が同じ場所にあったかと思うと、ついついいけない想像をしてしまい…………今に至る。


「おい、野球バカ!布団引いてやったからこっちで伸びてろ!」


優しいんだか優しくないんだか…
山本はフラフラと布団へ向かう。


(あ───…カッコ悪…)


自ら温泉に誘っておきながらこの有様だ。
しかも恋人に呆れられながら介抱されるのは……やっぱり情けない。


「ったく。じゃ、俺しばらく暇潰してくる。」


そう言って背を向け部屋を出ようとする。


(え…?傍にいてくれないのか…?)

こんな山中で何をどうして暇潰しするつもりなのか疑問だ。いや、それより傍にいてほしいと切に願う。

せっかくの旅行なのに…初めての旅行なのに…


「獄寺っ…待て…」


擦れた声では獄寺に届かなかったのか、彼は振り替えることなく、後ろ手で襖を閉めて、どこかへ行ってしまった。


(あーあ…何やってんだか…俺。盗み聞きなんてせこいことやってっからバチが当たったのかな…)


「獄寺……」


愛しい恋人はもういないのに、いつまでも襖を見つめていた。
もしかしたら「びっくりしたか?」なんて言って戻って来るかもしれない。
そうだ、きっと獄寺のどっきりだ。


(獄寺のヤツ…どっきりなら早く戻ってこい。充分ひっかかったぞ。迫真の演技だったな。…って、お前いつもそんな感じだったっけ?……獄寺…この部屋で一人は寂しいって…)


獄寺───……


襖が開くことはなかった。山本は愛しい恋人の名前を呟きながら、やがて眠りについた。
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