復活novel

湯煙の罠 Side・A
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綱吉は早速後悔していた。

十月の山がこんなに寒いなんて思いもよらず、真夏の服装で出てきてしまった。

(母さんの言う通り上着くらい持ってくれば良かった…。でもこれくらい寒い方が温泉も楽しめそうかな。)


そう、ここはある山中の温泉地。
紅葉には一足早かったものの、頬を撫でる澄んだ冷たい空気は秋の訪れを感じさせた。

綱吉がいかにも寒そうに背中を丸めていると、


「十代目、良かったら俺の上着を着てください!」


ここぞとばかりに声を張って、獄寺が自分の上着を寄越してきた。
半ば強引に渡された上着を押し返すように綱吉は断る。


「いいよっ、それじゃあ獄寺くんが寒くなっちゃうし。」


「じゃあこうするのはどうだ?」


無邪気な声が聞こえた瞬間、綱吉の右手は温かな何かに包まれた。

山本の左手だった。しっかりと握られ、更に自分のジャケットのポケットに(これまた強引に)招き入れてる。


「えっ、えっと…」


「山本!てっめー!」


憤慨した獄寺が山本と綱吉を引き離そうとすると


シュンッ…


銀色の閃光が走り、綱吉と山本が今まで立っていた地面が砕け散った。

殺気を察知してとっさに後ろへ飛んだ山本とは違い、受け身を取れなかった綱吉は、その風圧で吹っ飛ばされた。


(ひ〜っ!何でこうなるんだっ)


地面に叩きつけられることを覚悟するも、いつまでたっても痛みはない。
恐る恐る目を開けるとそこには…


「ひっ雲雀さん!?」


先程繰り出されたトンファーを構えつつ、落ちてきた綱吉をしっかり抱き留めていた。


「な、何でテメーまでいんだよ。十代目、まさか山本以外にこんな奴まで呼んだんすか?」


いわゆるお姫様だっこ状態の綱吉を見て、怒りに拍車が掛かった獄寺は、殺意を宿した目で綱吉ごと雲雀を睨み付けた。


「ひっ…ち、違うんだっ。俺はリボーンに、たまには温泉にでも行って疲れを取れって言われただけで、誰が一緒かは聞いてなかったんだ。」


そうなのだ。
今朝早く、本日の祝日も修行かと思っていた矢先に、リボーンから温泉を勧められたのだ。『現地集合だぞっ』と、地図だけ渡してリボーンは足早に消えていった。
あのリボーンが休暇を与えてくれるなんて怪しすぎると、頭から疑ってかかった綱吉だが、


(いや、でも本当に気を使ってくれてるとしたら…)


考えの甘い綱吉は万に一の確立に期待を寄せることにしたのだった。

同じような事を獄寺と山本も聞いたらしい。
進路を同じくする三人は必然的に途中の山道で出くわしたという訳である。

そして四人目の雲雀が突如として現れ、今に至る。


(雲雀さんまで一緒ってことはただの休暇じゃなさそうだ…)


綱吉の淡い期待は早くも崩れ去った。


「綱吉は君たちのおもちゃじゃないよ。」


雲雀はそう言い残し、綱吉を抱えたまま歩きだした。


「あのっ、雲雀さん、俺歩けますから…っ」


「だって、寒いんでしょ?」


確かにさっきまでは寒かったが…今は耳まで赤い。

綱吉はそれを隠すかのように、雲雀の胸に顔を埋めてその身を任せた。

残された2人はというと、ここは引き下がった方が良いと判断したのか、間を置いてから綱吉達の後に続いた。
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