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□南国の島
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「別荘での甘い一夜」
より妄想。
・骸、超ツナ共に大学生くらいのお話。
光源は月明かりと部屋に備え付けてあった足元を照らす間接照明のみ。
聴こえるのは波の音と、ヤシの葉が風で擦れ合う音がするだけで、日常的な生活音が一切しない。
ここは海を隔てた南国のリゾート地なのだ。
昼間、散々海で大はしゃぎした綱吉と骸は、その余韻に浸るようにして、部屋から南国の夜景を観ていた。
「しかし、商店街の懸賞に当選するなんて、驚きましたよね。」
「運使い果たしたかもね。」
これと同じようなやり取りを今日一日で数回したような気がする。
別世界に迷い込んだ心地が一向に拭いきれなくて、お互いに夢うつつを確認しあっているのかもしれない。
綱吉はふとそんな風に考えてから置き時計に視線を移す。時刻は深夜零時を回っていて、正確な時間を知ると不思議なもので、急に眠たくなった。
隣の彼をちらりと盗み見ると、まだ景色を眺めている。
「……………」
愛を育むにはこれ以上ないくらい、お誂え向きの夜だ。
何もないなんて考えられない。
しかし、彼は何も仕掛けてこないし、そんな予兆すら感じられないのだ。
そんな気分ではないのだろうか。
こうして景色を眺める事数時間、実はずっと待機状態でいた。
いつかいつかと、初めは全身に神経を巡らせて緊張していたのだが、こうも待たされると流石にだれてくる。
綱吉は心の中でため息をひとつ。
これで駄目なら今夜は寝てしまおうと、こちらでタイミングをこしらえることにした。
「…ちょっと寒いかも…」
普段なら肩を抱き寄せてきたり、後ろから抱き締めてくれたりするのだが…
「では熱いお茶でも入れましょうか?」
と、聞いてきただけだった。
「……いらない。寝る。」
熱い夜を望んでいるのは自分だけなんだと、少しふてくされてベッドへ向かおうと背を向けた。
「待ってくださいっ…」
一歩踏み出そうとした所で手を繋がれた。
「……何?」
「すいません。今日は特別な夜でしたので、もしかしたら綱吉くんから誘っていただけるかもしれないと、待っていたんです。」
「なっ……」
骸は切なげに綱吉を見つめてから繋いだ手に力を込めて、自らの胸に引き寄せた。
「あんまり素敵な雰囲気でしたので、あなたから誘っていただけたら最高だって…少し魔が差したんです。」
なんだ、そんな事を…
「………もういいよ。」
綱吉は骸の手を振りほどいて再びベッドへ向かった。
「綱吉くん…機嫌を損ねたのなら謝ります。ですから…」
「どう……誘ったらいいんだ?」
綱吉は骸の言葉を遮って、やがて彼の方へゆっくり振り返る。
その瞳は困惑で潤み、オッドアイを釘付けにした。
「……俺から誘うなんてした事ないから…」
綱吉は着ていたローブの帯を解き、するりと肩を覗かせた。
「全部、脱いだ方がいいのか…?」
中途半端に衣類を乱してしまったのが恥ずかしくなって、思わず問い掛けた。
呆然と扇情的な光景に目を奪われていた骸も、綱吉に歩み寄り、即座に口付けた。
「んっ……ぁっ……」
舌を突くような、控えめな口付けだった。
「それから?…俺は何をしたらいい?」
もう何もしなくても、このままいつもの流れに身を任せても良いくらいに、骸も興奮しているのが伝わっているのだが、少しでも彼の要望に答えたいと思った。
いつもなら絶対にあり得ない。
これは日常から逸脱した幻想的な夜がそうさせているんだと、羞恥から逃れるため、自分に言い聞かせた。
「……では、ベッドに腰掛けて、僕に愛の言葉を…」
綱吉は言う通りに弾力性のあるベッドに腰掛けて、骸の手を握った。
とても恥ずかしかったけど、この際だから雰囲気に酔った勢いで口を開いた。
「骸、大好き。……愛してる…」
2010.06.04