復活novel
□花嫁のキス Side・B
2ページ/5ページ
よくよく考えると、山本の部活があるからといって、獄寺が先に帰宅するのは不自然だったりする。
山本と付き合い始めてからは、何だかんだ言って甲斐甲斐しく獄寺は適当に時間を潰して部活が終わるのを待つのが常だった。
先に帰ることになった経緯はと言うと簡単な話で、山本が今日は先に帰ってくれと言ってきたのであった。
その時の事を思い出すだけでも腸が煮え繰り返る。
テスト期間の一ヶ月は綱吉の為、各々の身の為と、禁欲生活を宣言して恋人らしいスキンシップは一切禁止した。
初めは「キスくらいいいじゃねーか」と山本に迫られた事もあったが、一度宣言した事が揺らいでしまう恐ろしさを知っているので、断固として拒否した。
その後も女々しく何度か言いよられたが、厳しく突っぱね、二週間もすれば何も言ってこなくなった。
そんな一ヶ月にも渡る長いスパンの禁欲生活が終演を迎えたというのに、先に帰れときたものだから拍子抜けだ。
てっきりお預けを食らって餓死寸前の獣のごとく、早々にお泊りのお誘いがあると思っていて、今日一日柄にもなくそわそわ落ち着かなかったというのに……。
これはヤツの仕返しだ。
禁欲生活を余儀なくされてすねやがったんだ!
ついつい、そんな考えに行き着いてしまうのだが、蓋を開ければとどのつまり、乙女チックな時間を一秒でも過ごしてしまった自分が許せないのである。
期待を大幅に裏切られたのだから尚のことだ。
“そっちがその気なら俺だって”の理屈で、めいいっぱい虚勢を張って、眉一つ動かさず「分かった。」と即答してやった。
今思えば子供じみた感情に振り回された気もしないでもない。
だが、ここで引くことも出来ず、山本が泣いて請うまでは許すことは出来ないだろう。
「……獄寺くん、山本と何かあったの?」
「へ?」
ズバリと心髄を突いてきたので、思わず間抜けな声を上げてしまった。
「ほら、今日は一緒に帰らないのかなって…」
「う……。」
ぐうの音も出ない獄寺の様子に、慌てたのは綱吉だった。
「何かあったんなら相談にのるよ?」と優しい言葉を掛けてくれたのだが、十代目を煩わせる訳にもいかず、大丈夫だと伝えた。
ふと何気なく違和感を覚え、視線を走らせる。
(あ、……………)
ベッドの影に隠すようにして置いてあったボストンバックの存在を獄寺は見逃さなかった。
昨日まではなかったものなので、昨夜か早朝に綱吉が用意したものだろう。
(俺はバカだ………)
禁欲生活を送っていたのは何も獄寺達だけではないのだ。
綱吉はこれから恋人の所へ行くのだろう。
準備がされているのは今日帰って直ぐに出発する為だ。
早く会いに行きたかっただろうに、小一時間程の時間を奪ってしまった。
優しい綱吉は急く気持ちを押さえて付き合ってくれたに違いない。
大失態だ。
獄寺は適当な言い訳を取り繕い、独り帰路についてから改めてため息をついた。