復活novel2

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レンジを稼働させると、焼き肉の匂いが部屋中に広がった。

コンビニの定番メニューと言うか、栄養に偏りがあると言うか…。
食育を担う家庭科のスクアーロが見たら吠えそうな品目だ。

余計なお世話だろうけど、野菜ジュースもグラスに注いで横に添えてやった。


「………どーも。」


小さく呟いて割り箸を割る獄寺に、感動すら覚えた。

話し合いを始めたかったが、この和やかな空気を淀ませるには惜しい気がする…。

もう少し、

もう少しだけ俺に付き合ってはくれないだろうか。

せめて、食事の間だけでも。
そう思うとこの一分一秒がとてつもなく貴い時間に思え、気付けば口を開いていた。


「なあ、毎日こんなに遅いのか?」


俺の知っている獄寺は、この問いに答えることは決してない。

けど、今日の獄寺は獄寺であって獄寺でないのだ。


「…今日みたいに遅いのは稀。」


応答があった…。何だこれ。目頭に熱いものを感じる。
意志の疎通が出来ている現状に、涙ぐむ始末。
それくらい、俺はどん底にいたんだな…と実感した。


「何の仕事?」


「………写真撮られたりする。実質労働時間は10時に終了したから、違反じゃない。」


ちょっと声のトーンが下がった。
未成年者の深夜労働について咎められたとでも思ったのだろう。

それにしても…写真を撮られる仕事って何だ。

そこまで掘り進んで聞いても良いか迷ったが、ダメ元で尋ねることにした。

すると、獄寺は無言で箸を置き、アタッシュケースから幅一センチ程ある冊子を取出して渡してくれた。


「肌着部門の担当をしてる。」


「ふーん……?」


どうやらアパレルメーカーの通販冊子のようだ。

ペラペラとめくるとティーン向けのカジュアルな冬物衣類が紹介されている。

値段の設定も安過ぎず高過ぎずといったところで、ハイセンスなものを無難な価格で提供している印象だった。


「俺が十代の頃はお洒落とは無縁だったな…。」


過去の自分と、若いモデルの青年とを重ねてしまい、愚痴っぽくこぼしながら、肌着の特集ページへと移行する。

肌着…

ん?肌着…!?

自然に聞き流していたが、肌着とはすなわち…


「ッ!!…ゴホッ…ゲホッ…!!」


衝撃的な画像が目に飛び込んできて、野菜ジュースが気管に入った。

だってそこには、獄寺の…獄寺の下着姿が…!!!

紹介されているボクサーパンツを装着しているだけ。至って健全なカットだ。

勿論上も同じ材質のタンクトップを着ているので肌の露出はほとんどない。

だが、俺の目を介する事でとんでもなく官能的に見えてしまう。

保温性抜群?有名デザイナーとのコラボ企画?
そんな些細な情報は右から左に流れていった。


これは…そんじょそこらのエロ本より効果はありそうだ。
………って何の効果だよ。

自分で突っ込みを入れつつ、俺はカタログ冊子を獄寺に返した。
物凄く名残惜しいが、メーカーさえ記憶していれば後で入手可能なはずだ。


「そ、そうか。獄寺ってモデルだったのな。何かスゲーな。」


「……別に凄くない。高額バイトを選んだだけだ。」


「いやいや、人には適材適所ってもんがある。モデルなんて誰でも勤まる仕事じゃないって。獄寺だから良いんだ。」


「………え?」


獄寺は弾かれたように顔を上げた。少し、困惑の色を滲ませている。

俺、変な事言ったか…?
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