――――――――


「あー、終わったあ………」
思いっきり腕を伸ばした。

長々と喋ってた校長先生の話が終わると各学年事教室に戻るため散り散りになっていった。


「ねーあのハゲ校長無駄話長すぎなんだってば」

「ちはる…は、ハゲ校長……て」

(確かに髪薄いけどさあ…)

あの校長ああ見えてまだ50代前半なんだよねえ。

赴任してきてまだ1年ちょいでアダ名がハゲ校長って何だか校長先生が哀れに思えてきた……くすくす、と笑いを漏らしていると。


「なーーに笑ってるの?宮古椿ちゃん。」

「!!!」


な、こ…この声どこかで聞き覚えが……

「ねえーってば」
つんつん。

「………、」

そう言いながら指で頬をつんつんしてくるこのデカイ人は……もしかして、もしかしなくても……!

「…ねえー無視しないでー」
つんつんつん。

「…ねえ呼ばれてるよ。」
知ってる。知ってるけど!

「……………〜〜っ
もう、何なんですかつんつんしてきて…!!…て、あーーーっ」

「あ、やっと振り向いた。」



聞き覚えがあると思ったらさっきの飄々男……!!

「ななな何で、此処に貴方が居るんですか……えっと」

「?ああ、名前ね。相原理斗っていうの。此処に居るのはね、先生として来てるから。」

「は……先生?」


「そ。ちなみに君の学年で化学担当です。よろしくねー椿ちゃん。」

そう言って私の頬を再びつんつんし始めた。


「………………。」
てっきり学校に用があるお客かなんかだと……


「ていうか……っ馴れ馴れしくないですか、今日初めて会ったのに下呼びとかって…それに何で名前……」

「何言ってるの。名前なんてクラス名簿見れば分かるじゃん。
それに椿ちゃんって言い方、ひょっとして男の人に呼び慣れてないから恥ずかしいの?」


「…っち、違います!!
……そろそろ教室に戻るので失礼します、相原先生。
行こ、ちはる。」

ペコリとお辞儀をすると早歩きで体育館を後にする。
何あの人、軽い軽すぎる!!いきなりつんつんしてくるしっ

あーあ、2学年の担当なのか……どうなるんだ一年間………はあ。



――――


「……椿ちゃん、ね。確かに現代(ここ)では初めてなんだけど」

クスクスと笑いを溢す。
(紫乃ちゃんよりは年下だし、子供っぽいし顔に表情がコロコロ出やすいけど……でも)

「…………」

(…まあ、いいか。
今はそれよりも……)



「…そろそろ挨拶しに行こうかな。久々の再会ってね。」
踵を返し、その彼の所へと向かい始めた。



―――――

体育館のステージ近くで多波星は同じ学年の教員達と軽く談笑していた。

遠くで生徒と誰かがわーわーと騒いでいるのが耳に入って、視線だけ動かして聞こえてくる方向を見た。



「――――。」
一瞬言葉を失いそうになったが、頭の中で必死に冷静を保った。

…やはり見間違いじゃなかったのか。
そしてあの長身の男は…………

星は小さな溜め息を溢して、視線を戻した。どのみちすぐ嫌でも顔合わすことになるのだ。

―遥か遠い昔自分を殺した憎い彼奴に。


(………、運命とは皮肉なものだな…)




―…………まさか、生徒として出逢ってしまうなんて。



静かになってどうやら教室の方に友人と戻って行ったようだ。そして代わりにこちらに近付いてくる気配。


「多波先生、少し宜しいですか?」

「…………。」
声の主に目線だけで合図をし、談笑していた教員達に別れを告げ体育館を出て二人は人気の無い場所へと向かった。




――…人気の無い裏庭。誰も居ないことを確認して、ようやく星は口を開く。

「何の用ですか、相原先生」


「何、わざとらしいなあー分かってるくせに。やっと再会出来て喜んでるっていうのに」


「俺を殺した張本人がか?」

「ふふ。」
相変わらず意図の読めない表情に少し苛立つ。


「やだなあ、怒った顔しないでよ。
さすがに現代(ここ)で人を殺めたら捕まっちゃうし、それにしたいとも思ってないから。安心してよ。……それより」
と話を切り替え、本題なのであろう話を始めた。


「あの子…………此処に居るよ。きっと生まれ変わった姿だ。目の色も顔のパーツも……紫乃ちゃんにそっくり。」

「……っ」
ふいに名前を呼ばれて一瞬顔が強張る。

「……可能性は」
「多分紫乃ちゃんの生まれ変わりだよ。あの子のお家、数百年代々続く神社の家系だし。」


「な……」
「確かめてみたら?この高校から比較的近い高台のところにある神社だから」


どこかであの生徒を生まれ変わった紫乃ではないと否定したかった。

……したかった、が


「楽しい日常が始まりそうだよね」


「―――…」
意味を含ませたその言い方に、星は先の見えない不安を覚えたのだった。
教員生活始まりの日である



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