「私、待ちます。…貴方が帰って来るのをずっと待っていますから」

そう言って少し寂しそうに微笑む貴方。
まさかそれが一生の別れになるなんてこの時の俺には知る由もなかったけれど…

「……どうい、う事、だ…」

油断を招いて背中を斬られてしまった。血が止まることを知らず溢れてくる。
…意識が朦朧とし始めて、手足の力も抜けて上手く動かない。
ああ、もうすぐ自分はこの男に殺されて死ぬのだと意識が薄い中ぼんやりとそう思った。
…約束も果たせないまま。




「だーかーらあ、何回も言わせないでよ。君、今まで騙されてたんだって。
今日の約束だって、君を殺す為の口実だし?」

「………っ」

「ねえ…存在が邪魔になったからそろそろ消えてもらうよ?」

「秋、斗…………っどうし、て」

「君、しつこいって。……じゃあね、ばいばい」

ヒュッと刀が振り下ろされ、辺りに血飛沫が飛ぶ。

「…っぐ」
(――…紫、乃)

―意識が薄れゆく中見えたのは、月明かりを背に狂気に笑う自分を裏切った男の姿だった。


「…ねえ、ひとつ対になってるもう一つの刀がないけど、もしかして恋人にでも預けた?あの紫乃ちゃんって子に。
……て、もう事切れた奴に聞いても仕方ないか。ふふ。」


――…約束、したのに……

再び帰ったら貴方と一緒に、なると。
残して逝きたくはなかったのに……





―――――――



――桜の花びらがヒラヒラと舞い落ちる。



今日から教師としてこの高校で働き始める。正確には2年生の副担任だが。
多波 星は職員室で自分のテーブルを整理しながらぼんやりと窓から見える桜を見ていた。


…久しぶりにこの夢を見た気がする。
正確には夢じゃなく自分自身に起こった実際の出来事。
いわゆる…前世。

自分には物心がついた頃から全てではないが前世の記憶がある。戸惑いはあったものの、覚えている以上仕方ないのだと思うしかない。
あの方、…紫乃は現代(ここ)に居るのだろうか。
自分と同じように生まれ変わって生活をしているのだろうか……


そんな事を考えているとふと視界の端に何かが止まった気がして、その方向に視線を向ける。

(…………っ!?)

いや、気のせいだ。気のせいに違いない。
だって居るはずがない、と頭の隅で言い聞かせててもその姿から眼が離せなかった。

急いでたようだから寝坊でもしたのだろう、既に視界から姿は消えていた。

「……いや、」

見間違いだろう。距離は遠かったし、髪の色も少し違うし…

…それに久々に過去の夢を見たから感傷的になってダブって見えただけだ。


体育館に移動しなければ。
溜め息をゆっくりと吐くと始業式に出るため必要な持ち物だけ手に取り、体育館へと向かった。



――――


「ひ、あー…!!ギリギリセーフ…は、はあ…は…」

ドアに手を付き息を整える。
(な、なんとか間に合った。走ればこんな早く着けるんだ……)


担任の先生は……まだ来ていないようだ。ギリギリ助かった…


「おー椿おはよー。間に合って良かったね〜。どう?メールでクラスの振り分け送ったんですがね。」

友人長原ちはるは、にこにことこちらに顔を向けてくる。


「………助かりました。」



そう。
自分と同じ位の時間に来ているのに見掛けなかった為寝坊したのかもしれないと解釈したらしく、クラスの振り分けをメールで知らせてくれていたのだった。


うん……あの笑顔は宿題とかテストの範囲で分かんない所を手伝えって言ってる眼だな……。何となく言葉も遠回しにそう言っている。

メールで知らせてくれた貸しよりも、勉強手伝う方が代償が大きい気がするけど……



黒板に張り出されている席順の紙で自分の席を確認すると、そそくさと移動し自分の席に座った。

そして自分の席に座っていたちはるが椿の所に来る。
「珍しいね?椿が寝坊するなんてさ。」


「…うんまあ、ね。
早く布団に入ったんだけど、なかなか寝付けなくて結局眠れたの遅かったんだ。」

…なんてね。ちょっと嘘ついてみた。

「ふうん、そうなんだ。でもまあ、間に合って良かったじゃん?」
(…流石に変な夢を見たから寝坊しました。なんて言えるはずもないしね)


それから少し経ってガラリとドアが開いて担任の先生が入ってくる。

「ほらほら、先生来たよ。席に」「…テストの範囲と勉強で分かんない所は」


……はあ、やっぱり。


「分かったから、教えますからっほら席に戻った戻った。」
「えーはいはい」


盛大に溜め息を吐く。
ちはるを自分の席に帰らせて、黒板の方に目を向けるとぼんやりと先生の説明を聞いていた。



これから始業式が始まる。
説明が終わり、廊下へ移動すると並んで体育館へと向かった。

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