Novel

□保護者
1ページ/1ページ



―まず、場所が悪かったんだと思う。

その場所を考えずに盛り上がってしまった俺達も悪かった。

でもやっぱり一番の問題はこの人選ミスだろ…。




хх保護者хх




人気の無い校舎裏にある桜の樹は冬獅郎のお気に入りの場所で、放課後になっても教室に姿を見せない冬獅郎を探して此処まで来れば、やはり彼を見つける事が出来た。


「冬獅郎!」

「黒崎!…悪ィ、もぅ下校か」

「良いって、また報告書だろ?」


すぐ傍まで歩み寄り、労いの言葉をかけてやれば冬獅郎はまるで猫みたいにすり寄って来る。


「あぁ、疲れた…甘やかせ」

「喜んで」


美しい翡翠の瞳を細めて甘えて来る冬獅郎の髪を撫で、触れる程度のキスをしている内は良かった。

でもやっぱり場所が悪かったんだ。

放課後の校舎裏は良い感じに影が差していて、花弁の舞う桜の樹の下、
自分の腕の中で頬を桜色に染めて甘えてくるのは、何よりも愛しい恋人。


最高じゃないか。


キスが深くなったって良いじゃないか。
少しくらい衣服が乱れたって仕方ないじゃないか。


冬獅郎の後頭部に片手を添えて深いキスをして、もう片方の手で冬獅郎の既に乱れたシャツの裾から手を差し込んだその時。
生活指導の鍵根に見つかった俺達は強制的に指導室に連行された。

最初は顔を真っ赤にして俺と一緒に大人しく説教を聞いていた冬獅郎だが、
今現在、俺の隣からはとても物騒な霊圧が放たれている。
目の前で説教垂れるこの教師のせいで。


「黒崎!お前校内で、あろう事か小学生の男子に何をしていたのか言ってみろ!!」

「冬獅郎は小学生じゃねぇよ、制服着てンだろ!」


"小学生"と言う単語にピクリと反応した冬獅郎の代わりに俺が其れを否定してやった、のに。


「制服を着せただけで誤魔化せると思うな、どう見ても小学生だろう!
君も、そんな小さな制服を誰から借りたのか知らんが勝手に校舎に入ってあんな事をして…!」


嗚呼、止めてくれ。
この教師は何故、こうも的確に冬獅郎のブラックワードを突いてくるんだ。

今にも死神化して斬り掛かって行きそうな冬獅郎を繋いだ右手で必死になだめる。


「今こうして説教してやっている間もそうして手なんぞ繋ぎおって、反省の色が伺えんな!」


いや、これアンタの命綱だから…!!

思わず声に出しそうになったその時、冬獅郎の低い声が静かに指導室に響いた。


「貴様、黒崎に免じて黙って聞いていれば…
調子に乗るなよ」

「何だその言葉遣いは!
やはり保護者の方を呼ぶ必要がありそうだな、自宅は?」

「保護者…?っは、テメェは救護班でも呼んでおくんだな」


どうやら冬獅郎はこの教師を病院送りにする気満々らしい。
正直大賛成だ、加勢すると言いたい所だが実際にやってしまうと色々まずいので俺は冬獅郎の肩を引いて耳打ちした。


「落ち着けよ冬獅郎、乱菊さん達を引率してる立場のお前が騒ぎ起こしちゃヤバくねぇ?」

「ぐ、」


責任感の強い冬獅郎に効きそうな言葉を選べば、案の定、効果は抜群で冬獅郎は軽く舌打ちをして黙り込んだ。

それでも目の前の教師はやはり黙ってはくれない。
この調子だと本当に保護者を呼ぶ迄は帰さない気だろう。
冬獅郎もそれを察したのか、大きな溜め息を吐いてから教師に話し掛けた。


「…保護者を呼びたいなら呼んでやる」

「と、冬獅郎!ばーちゃん呼ぶなんて無理だろ!」

「阿呆、こんな事にばあちゃんを巻き込むつもりはねぇよ」

「だって…」

ばあちゃんでなければ一体誰を保護者だというつもりなのか。

乱菊さん?いやいや、あの人はきっと「こんな大きい子どもいません!」とか言って協力してくれない。
俺達をからかうネタだけ持ち帰るに決まってるじゃないか。

そうこう考えているうちに冬獅郎はポケットから携帯を取り出して番号を入力していく。
実に不本意だとでもいう様な表情で携帯を耳に当てて間もなく、聞き慣れた声が部屋に響いた。



「はぁい、浦原商店っす」


・・・・・・は?


「・・・俺だ、今少し厄介な事になっていてな」

「おや、どぅしたんスか?」

「・・・保護者呼び出しというやつだ。
学校に来てくれないか、親父。」


親父、という一言が強調されたのは"これで全てを察しろ"というプレッシャーだろう。
ってかぶっちゃけそんなことはどうでも良い。
俺は今、なぜよりにもよって浦原さんなのかと冬獅郎を問い詰めたい気持ちでいっぱいだ。
電話先で隠そうという気も無いのか笑い声が響いているじゃないか。


「浦原…」

「あっすみませんねぇ、つい…」

「…で、来れそうか?」

「もちろんッス!」






嗚呼、あの人すっげぇ楽しそうじゃねえか。





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ