treasure

□月光院さくら様より
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[熱 1 一万打&一周年フリー]


 日番谷が氷輪丸の微かな変化に気がついたのは、週に二度ほど行っている斬魄刀との対話の時だった。
「氷輪丸」
 いつもの対話、いつもの氷輪丸。
 だが、対話が終わった僅かな瞬間、胸が焼けつくような感覚があった。それはほんの一瞬だったので、最初は気にもしていなかった。
 しかし、日が経つにつれ、それは長くなっていった。それに伴い対話もうまく出来なくなっていた。
 そして遂には、氷輪丸と対話することが出来なくなってしまったのだった。
 ――“拒絶”
 そんな言葉が頭を掠めた。だが、背中から伝わる氷輪丸の霊圧は、拒絶とは違っていた。まるで日番谷を欲し、手中に納めんとする、名に相応しき紅蓮の如き熱い欲望。

「はぁっ……」
 日番谷は体の奥から沸き上がってくるかの様な熱に、悩ましげに息を吐いた。
 技術開発局に調査を依頼した氷輪丸。側に無くとも、その熱は日番谷を捕らえて離さなかった。むしろ強くなっている気さえしていた。
 とりあえず卯ノ花に診てもらったが、身体に変化はみられないとの事。
 だが、日に日に熱は酷くなり、仕事にも影響が出始めた。
「一体、どうなってるんだ……」
 氷輪丸は、何をしたいんだ……。
 知りたいのに、対話すら出来ない。そんな状況にイライラが募る。
 日番谷はイライラと熱に浮かされながら、技術開発局へ向かった。だが、進展らしい進展は無かったらしい。十二番隊隊長であり、技術開発局二代目局長である涅マユリに門前払いをくってしまった。
「っはぁ……」
 熱い息が、日番谷の口から吐かれる。まるで媚薬に浮かされた様な吐息に、すれ違った十二番隊の死神はドキリとした。
「あの、大丈夫ですか日番谷隊長……」
「あ、ああ……」
「隊舎までお送りいたします」
「ありが――」
 ス、と伸ばされた隊士の手。その気配を感じた瞬間。
 日番谷は思いきり、その手を払いのけてしまった。
 あまりの出来事に驚く隊士だったが、一番驚いていたのはその隊士の手を払いのけた、日番谷本人だった。
「あ……、すまん。身体が勝手に……」
「いえ」
 いつもの日番谷の言動と今の苦しげな表情をみれば、先程の行為が彼の本意では無い事くらいわかる。隊士は、さほど嫌悪感も感じなかった様だった。
「御体には触れませんので……」
 そう言って、日番谷の三歩後ろから、十番隊の隊舎まで日番谷を送り届けた。
(十二番隊の
奴にしては、頭がいい奴で助かった……)
 隊長が聞いていれば、失礼な話だネ! とでも言いそうな考えだが、今はあの頭の切れる隊士に感謝したい。隊が違うとはいえ、あまり心証を悪くするのは良くない。
 日番谷は、ほっと胸を撫で下ろした。

 いよいよ身体も限界らしい。一刻も早く楽になりたい。
「隊長……、見ていられません。お部屋で、暫くの間御休みなさってください」
 後はやっておきますので、と副官である乱菊は、かなり心配しているらしい。
「すまんが、そうさせてもらう。――ああ、いい。一人で帰れる」
 乱菊の手まで叩き落とすわけにもいかない。彼女の手が伸びてくる前に、お断りしておいた。
 背中に嫌と言うほど心配の視線を感じながら、日番谷は執務室を後にした。

 部屋に戻ると、着替えて横になった。だが、横になったからといって楽になるわけでも無い。
 二週間もこの状態が続いてるのだ。横になってこの熱が解消されるなら、最初からやっている。むしろ、横になっている方が辛いかもしれない。
「一体、何だっていうんだ……」




 その頃、現世では。
「冬獅郎が不調?」
 一護は数学の教科書を捲りながら、ルキアの言葉を繰り返した。
「ああ。浮竹隊長の話によると、日番谷隊長が不調というより斬魄刀の氷輪丸の方が不調のようなのだ」
「氷輪丸が?」
 机に向かっていた一護は、思わずルキアを振り返った。が、更衣中だったらしい。思いきり頭を叩かれた。
「ああ。それが、日番谷隊長の御体に影響を及ぼしているらしいのだ」
「で、原因はわかったのか?」
 叩かれた頭をさすりながら、一護は数学の宿題を進める事にした。
「今、技術開発局で調べてる最中らしいのだが……」
 あまりうまくいってないのだろう。一護は背もたれに寄りかかり、大きな伸びをした。
「気になるな……」

 行くのなら一人で行け、と言われ、一護は死神化すると、浦原商店に向かった。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「何だネ! これは!」
 薄暗い技術開発局の一室。
 その二代目局長でもある、涅マユリは声を荒げた。荒げたくもなる結果が、目の前のモニターに映し出されていた。
「こんな結果の為に、ワタシは何日も徹夜したわけじゃぁないんだヨ!」
 怪しげな装置に繋がれた氷輪丸を一瞥すると、マユリは直ぐ様阿近を呼びつけ後を任せると、さっさと部屋を出ていって
しまった。
 たった一言“後はお前に任せるヨ”と言われた阿近。訳もわからないまま、光るモニターに素早く目を走らせた。
「なるほど……」
 こりゃ、怒るわけだ。局長の態度に納得しつつも、阿近は苦笑を隠せなかった。日番谷に現れている症状も、これなら合点がいく。
 実に解決策は簡単だ。
 阿近はモニターの電源を切り、氷輪丸を装置から外した。
「ま、もう少しの辛抱だ。直ぐに楽になる」
 近くの机に氷輪丸を置き、機材の電源を全て落とすと、阿近は部屋から出ていってしまった。

 

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