treasure

□吉川柚様より
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トンネルを抜けると其処は、という言葉を思い出す。
目の前に広がる光景に、ただただ息を呑むばかりだった。





melt




断界を通り潜り抜けた門の先、尸魂界には真っ白な雪が降っていた。
しかもそれは粉雪なんてものではなく、かなりの大雪だった。

「・・・っ寒」

びゅう、と凍えるような風が死覇装の袖口や襟元の隙間に入り込み、
俺は思わず身を縮こませる。しかしこれは紛れもなく自然現象であり
今俺が頭に思い浮かぶ人の所業ではないのは確かだ。
しかし寒い。どうせこっちに来るのなら
マフラーとか襟巻きでもしてくるんだったと後悔する。

「は、早くどっか屋内・・・!」

屋根に降り積もっている雪は、何十センチだろうか、凄く分厚い。
そんな所など歩けば間違いなく足を取られるだろうが、
さすがは瀞霊廷。人の通る通路は完璧に除雪されている。
暖かい場所を求め、否目的地に向かって足を踏み出した。


・・・きっとあいつも、これぐらいの大雪を降らせるのだって
造作もなくやってのけられるんだろうなあ。


なんて、どうでもいい事を思う。
けれど、それ以上の力を持っているのは間違いないし
改めて思い返してみれば、
そんな強者と俺は恋人関係だなんて、凄いことだと思う。

寒さで引きつりそうな顔で、苦笑する。
でもこんな死ぬほど寒い中でも、きっと彼は平気な顔を
しているのだろうか、と凄く気になった。

つまりそれ程―――――


雪が、冬という季節が似合う人なんだって事。





*****




尸魂界の建築物は、一言で言うと昔の日本の町並みだ。
まあ、それは主に流魂街のほうの事で、
瀞霊廷内になってくるとちょっと違ってくる。
近代の建物に近い、とでも言えばいいのだろうか。
それでも和と洋で言うなら和寄りのその建物達は嫌いじゃなかった。

見てると気分が落ち着くし、それにそんな風景に雪が降っている姿は綺麗だ。
まるで古い絵画を見ているような景色が、此処にはあった。

十番隊隊舎内、その隊長の自室付近。

これから会う相手は、今日は非番だと言っていた。
だから、今日はその人の仕事場に行っても会えない。
そいつが普段私室として使っている場所に向かう必要があった。

壁が無く、柱と屋根だけの廊下を渡る。
四方に見えるのは枯山水があった庭だ。
あった、と過去形なのは、今は雪が積もって一面
何もない真っ白の平地に変わってしまっているから。
この先にその人の自室がある。暫く歩くと周りの庭の形も変わってくる。
雪椿の植え込みが見えた。その向かい側の部屋がそうだ。

しかし部屋の主は室内には居なかった。
部屋の前の廊下の柱にもたれ掛かって
俺が来るのを待ち構えていたかのように佇んでいた。

「・・・よう、黒崎」

俺がこちらに向かっているのはとっくに判っていたんだろう。
俺の姿を見て特に驚く様子もない。
近づいてくる霊圧に気づいて、外に出て待ってくれていたのか。
冬獅郎は、久しぶりだな、と言って笑った。

「おう、久しぶり」

そう返すと、冬獅郎は部屋の入り口の襖を開けた。

「寒いだろ、中入れよ」
「あ、悪いな」

冬獅郎は茶でも入れてくる、と部屋の奥に行ってしまった。
部屋の中に置いてあった火鉢を見つけ、その側に座る。
かじかんだ指先が痛くて仕方がなかったからだ。
しかし本当になんて古風なんだろう。まるで時代劇の中にいる様だと思った。
現世で使われているエアコンとか、ヒーターとかそういうものとは
全く無縁なんだ、この世界は。とつくづくそう思う。

「なんだよ、手真っ赤じゃねえか」
「冬獅郎はこっちに居るんだからもう十分知ってるだろ、
もの凄え大雪なんだぜ、外。誰だってこうなるって」

湯飲みと急須を盆に乗せ運んできた冬獅郎は
俺の両手の色を見て呆れたような口調で言った。
それでもちゃんとお茶を注いだ湯飲みを手渡すときに
持てるか?と訊いてくれる。大丈夫と返しつつ、
そんな細やかな心遣いをしてくれる優しい所にも
俺は惚れたんだなあと内心でにやけてしまった。

「・・・あ、なあ冬獅郎」
「何だ」

俺は注ぎ立ての熱い緑茶を啜りつつ訊いた。

「尸魂界にこんな大雪が降る事って多いのか?」
「・・・いや、稀だな」
「じゃあ、異常気象ってやつか」
「別に大事ではないがな。誰かの仕業というものでもない」

「・・・」
「・・・何でこっちを見る」

いや、だって冬獅郎だったらこれぐらいできそうじゃん。
そう言ったら苦笑いをされてしまった。

「まあ、出来なくはないが、まずこんな大雪を降らせる理由がない」
「あ、そっか」

・・・つうか、出来るんだ。

やっぱり冬獅郎はもの凄い奴なんだなあ。
と一人頷く俺を冬獅郎は軽く小突いた。



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