乱れし華
□赤く染まる
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天正10年6月2日。
本能寺は、炎に包まれていた。
その中に人影があったーー。
「…全焼するのも時間の問題ね」
濃姫は静かに呟いた。
本能寺の中にいる濃姫は、外へ逃げ出そうとはしなかった。
「ねぇ…?あなた」
濃姫は足元にいる人物に問いかけた。
その人物は、動かない。
「光秀に殺されるくらいなら私が…。
あなたを殺していいのは、私だけよ…」
濃姫はその場に座ると、手に持っていた短刀を床に置いた。
その短刀には生々しく血がついている。
濃姫は信長の体を反転させた。
胸に広がる、赤黒く乾ききった血。
自分で、愛しい人を殺した。
「…あなたのいない世界なんて、ちっぽけなこと。
それを教えてあげましょう?」
ガタンッ
天井が焼け焦げ、床に落ちた。
パチパチと炎がすべてを呑み込んでゆく音だけがする。
濃姫は信長にそっと唇を落とすと、短刀を自分の首に当てた。
「地獄で会いましょう」
そういうと、濃姫は一気に短刀を横に引いたーー。
本能寺は、燃え続けている。
赤く染まる二人をも燃やし続けながら…。
ーfinー