乱れし華

□赤く染まる
1ページ/1ページ

天正10年6月2日。


本能寺は、炎に包まれていた。

その中に人影があったーー。













「…全焼するのも時間の問題ね」


濃姫は静かに呟いた。


本能寺の中にいる濃姫は、外へ逃げ出そうとはしなかった。


「ねぇ…?あなた」


濃姫は足元にいる人物に問いかけた。

その人物は、動かない。


「光秀に殺されるくらいなら私が…。
あなたを殺していいのは、私だけよ…」


濃姫はその場に座ると、手に持っていた短刀を床に置いた。
その短刀には生々しく血がついている。

濃姫は信長の体を反転させた。
胸に広がる、赤黒く乾ききった血。


自分で、愛しい人を殺した。


「…あなたのいない世界なんて、ちっぽけなこと。
それを教えてあげましょう?」


ガタンッ


天井が焼け焦げ、床に落ちた。
パチパチと炎がすべてを呑み込んでゆく音だけがする。


濃姫は信長にそっと唇を落とすと、短刀を自分の首に当てた。





「地獄で会いましょう」


そういうと、濃姫は一気に短刀を横に引いたーー。













本能寺は、燃え続けている。


赤く染まる二人をも燃やし続けながら…。











ーfinー
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ