乱れし華

□主と忍の関係
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戦国が、終わった。




















「こたびの戦、そなたの力がなければ負けていたであろう」


大阪城にて。
庭の景色を見ながら言う幸村の姿は、いつも身に着けている赤い鎧ではなく着物のような軽装であった。


「いつもは褒めないのに急にどうしたんですか?」


くのいちは縁側から足を投げ出し、ぷらぷらと足を上下に揺らした。





大阪夏の陣にて豊臣が勝利したことにより、徳川は滅亡。
今、天下は豊臣のものとなった。


豊臣勢として戦に参加していた幸村は、こうして平和に暮らすことができている。


「…いつもお前は私の側に居てくれたな」



嫌な予感がする。


くのいちは揺らす足をぴたりと止めた。


「だから、戦国が終わった今お前は自由になった」




あぁ、やっぱり。


くのいちは俯いた。


「もう私の側に居なくてもよいのだぞ?」


戦国が終わった。
つまり、忍は用なしということだ。

主を守るためにある忍。
だが戦のない世で主に仕えている意味などなかった。


「…そう、ですね」


くのいちは被っている帽子を前にずらし、顔を隠した。


「今までありがとう。そなたが私の忍でよかった」


幸村が、ゆっくりと振り向く。
その顔はひどく穏やかだった。


「褒美として着物でも好きなものでも何でも買ってやるぞ。
何が欲しい?」
「……」
「くのいち?」


返答のないくのいちを心配して、幸村はくのいちの顔を覗いた。















やめて。
見ないで。


こんなカッコ悪い顔見せたくないよ。



私は、好きであんたの側に居たのに。

あんたが好きだから…側にいたのに。



…もういいや。


私は勢いよく顔を上げた。

幸村様が私を見て驚いている。
…間抜けな顔。


「ど、どうした?
そんなに泣くほど嬉しかったか?」


慌てふためく幸村様。

ほんとにあんたって馬鹿で真っ直ぐで鈍感で…。


私は今まで以上の笑顔を幸村様に向けた。


「私も、あんたの忍でよかったよ」





これは、別れの言葉。

もう主と忍の関係なんて終わり。





だから…。


「くの…」


私は微笑むと、幸村様の唇に己の唇を重ねた。


「…幸せにね。幸村様」
「っ!待て!!」


私は逃げるようにその場を後にした。

後ろから幸村様の声が聞こえてきたような気がするけど、振り返ることはなかった。



私は本当に幸村様の忍でよかったよ。





「さよなら…。幸村様」















ーfinー
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