月夜の奏

□甘い音色
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いつしか、奴の音色を聞くことが日課になっていた。














満月の夜。
俺が書を読んでいた時のこと。





ベンッ


ほら、今日も聞こえる。


俺は書を閉じると、部屋を出て音色が聞こえる場所へと行く。



奴の…元親の奏でる音色が好きだ。
最初、鬱陶しいと思って注意しようとしたが、いつの間にか元親の音色の虜になっている自分がいた。





奴は、何を思いながら三味線を弾いているのだろうか。

この透き通った音色の裏に、何があるのだろうか。


そんなことを考えていると、いきなり音が聞こえなくなった。



…どうしたのだ?


俺は心配になって縁側の角から顔を覗かせた。



…あ。


「元親。今夜は冷えるからもう中に入りなさい」


…おねね様。


「心配するな。それに、もう少し奏でていたい。」
「そう?でもなるべく早めに中に入るんだよ」


そう言うとおねね様は部屋の中へと入っていった。


「三成」
「!!」


な、何だ?
いきなり元親に呼ばれた…。


「そこに居ないでこっちに来い」


元親は俺の方を見ずに言う。

俺はそっと、元親の隣へと向かった。


「何だ」


なるべく、冷静を装う。


「ずっとそこで俺の音色を聞いていたのか」
「たまたま通りかかっただけだ」


素直に言えない自分に腹が立つ。

これだから人に嫌われるのだ…。


「嘘だ」
「!」
「いつも来ているだろう」


俺は目を見開いた。
今まで何度も元親の音色を聞きにきたが、奴の前に姿を現したことは一度もない。


「何故…そんなことがわかる」
「わかるさ。俺には」


そう言うと、元親は三味線を床に置いた。


次の瞬間。
思いきり手を引かれ、俺は体勢を崩す。


「何を…っ」


そこで言葉が途切れる。
否、口をふさがれた。


「んっ…」


ぎゅっと目を閉じる。

口の中に侵入してくる舌が己の舌と絡み合う感触に肩が自然と震えた。


「ふっ…う、はぁっ…」


苦しくなって元親の胸を叩くと、やっと解放された唇。

…こいつは、今何を…。


「お前の音色も聞いてみたくなってな」


さらりと言ったが、こいつが今やったことは…。


「嫌だったか?」
「…嫌、ではなかった」


?!
俺は今何を…!


「ならもう少し、お前の音色を聞きたい」


すっと伸ばされた手。

その手は俺の着物に伸ばされた。


「…好きにしろ」








虜になっていたのは、奴の音色ではなく元親自身だったのか…。





満月を背景に、二つの影は重なった。











ーfinー
 

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