短編V
□手の温もり
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「ほら美咲、手」
「な、何言ってんだよ!恥ずかしいだろ!このアホウサギ!」
「何言ってんだ。ここは日本じゃない。誰も俺たちを知ってる奴なんていない」
「それとこれは話が別だ!」
そう、俺とウサギさんは今…フランスにいる。
ウサギさんはフランスに行くならイギリスに行こうと言って聞かなかったけど、俺は前から凱旋門・エッフェル塔を見てみたかったし、登ってみたかった。
旅費はちゃんと自分で出すつもりでいたのに、あのアホウサギは俺が小声で言った言葉を聞いていたらしく、数日後には全ての手配を済ませていた。
「ねぇ、ウサギさん」
「ん?なんだ?」
「あのさ…旅費、帰ったらちゃんと払うから受け取ってよね。バイト頑張って貯めたんだからさ」
「いらないと何度も言ってるだろう」
「だって…俺が甘えてるみたいじゃん。俺だってもう20歳過ぎてるんだよ?」
「お前はもっと甘えて良いんだよ。…俺だけにな」
「な、何言ってんだよ!俺は真剣な話をしてたんだぞ?」
「わかってるわかってる」
ハハハと笑いながら俺の頭をくしゃくしゃと弄るウサギさん。
そしてソッと手を掴まれた。
その手は12月のフランスの寒さを感じさせない程の温かさ。
「さて、まずは凱旋門から行こうか。エッフェル塔は夜に行った方が綺麗な夜景が見れるからな」
「うん!デジカメ持ってきたから、たくさん写真におさめるんだ!」
「ああ」
そして俺たちは凱旋門へ向かった。
右手にウサギさんの手の温もりを感じながら…。