短編V
□Neige et nourriture chaude
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「雪…?」
仕事からの帰り道、弘樹は空を見上げながら呟く。
物音を一切たてず、空から降ってくる白い塊。
「もう、そんな時期…か。早く帰って温かい物を作るかな」
風邪をひきやすい自分の為であり、またそれは仕事に疲れて帰ってくる野分の為でもあった。
コトコトコトコト…
キッチンから何かが煮込まれている音が聞こえる。
弘樹は調味料を使い、最後の仕上げにかかっていた。
そして…
「よし、出来た。今日は中々の出来だな」
味付けに満足した弘樹は火をとめ、蓋をした。
「今日は早く帰れるって言ってたから、一緒に飯を……って何言ってんだ俺は!なに乙女みたいな事を言ってんだ…!」
その時…
「…ただいまです、ヒロさん」
後ろから突然抱き締められる弘樹。
この家に住んでいて弘樹に抱き付くのは、ただ一人。
「の、野分!?お前い、いつ帰ってきたんだよ!?」
「たった今ですよ。ただいまと言ったんですけど、ヒロさん料理してて聞こえなかったんだと思います」
「そ、そうか…。野分、何か聞いたか?」
「何かって…一緒にご飯をってところですか?」
ニコニコしながら答える野分。
笑顔な野分に対し、弘樹は一番聞かれたくなかったところを聞かれてしまい…動揺を隠しきれずにいる。
「…何も聞かなかったことにしてくれ」
ボソボソと喋る弘樹に、野分は抱き締める力を強めた。
「おい…野分…」
「バッチリ聞きましたので、なかったことにはできません。だけど、俺の胸の中にしまっておきますね。…凄く嬉しかったです。俺も久しぶりにヒロさんと一緒に食事ができるって思っていたので…」
「そっか。…野分」
「はい?」
「お、おかえり」
「!!はい、ただいまです…ヒロさん」
野分は弘樹の頬に軽くキスをした。
「さっ、夕飯にするぞ!外寒かったから、ホワイトシチュー作ったんだ!」
「はいっ!良い匂いがずっとしてるので…早く食べましょう!」
野分は弘樹からはなれ、食器を準備をした。
野分は心の底ではシチューよりも先に…弘樹を食べたいと思っていたが、それはまた別のお話。