NOVEL

□ガラス男のその後
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椿は苛々として思わず壁を殴った。
鈍い音と共に壁がへこむ。
また衝動でやってしまったと、小さな溜め息を吐き出した。
ふらふらとする足取りは少しだけ重くて、普段は背筋を伸ばして歩く彼の姿は少しだけ疲れていた。
生徒会室に行ったら、ガラス事件の書類の整理をしなければならない。
6枚連続で割られて事件は迷宮入りする所だったが、割ったのはスケット団だと自分達で謝りに来た。
早朝にキャッチボールをしていたら手元が狂い、割ってしまったのだと。

しかし、彼は腑に落ちていなかった。

何故このタイミングで謝りに来たのか。
有耶無耶になって事件が忘れ去られれば自首する必要も無かっただろう。
気にしてはいけないと言い聞かせてもどうにも引っ掛かってしまう。
そんな性格に少しだけ嫌気が差していた。
放課後の空気は少しだけ爽やかで、陽が落ち掛けた4時の空は遠くが赤くなっている。
そろそろ夕焼けが訪れる、一日が静かに終わる。
生徒会室の目の前に着き廊下を振り返ると、其処には見慣れた赤い帽子の男が階段を上っていくのが見えた。
思わず目で追うと、その姿はあっけなく消えた。
校舎に人は残っていない、人がいるとなるとグラウンドと体育館、それに部室棟だけ。
気付けば椿はその男…藤崎の後を追っていた。
足音は立てず、気配を消して。
そして、藤崎は教室に入っていった。
後ろの扉からこっそりと内部を覗けば、藤崎は忘れ物を取りに来たらしい。
背負っていた鞄に教科書を詰め込んで後ろ扉から出ようとした時、目が合った。

「うお…っ、椿じゃねーか。…何だよ。」
「別に何でもない。」
「じゃあこっそり覗くなよ、怖えーな。」
「…」
「…じゃ。」

真横を通って教室から出ようとする。
その動きを目で追ってから、椿は藤崎の二の腕を掴んだ。

「って…何すんだよ。」
「話がある、来い。」
「はぁ?オレ今から部活なんだけど。」
「関係ない。」

ぐい、と椿が藤崎の二の腕を引っ張る。
よろけた藤崎など関係なく、椿はずんずんと誰も寄り付かない授業教材室へ歩を進めた。
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