NOVEL

□ガラス男のその後
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教材室は少しだけ埃っぽくて、空気が澱んでいる。
先程まで眺めていた明るい空とは大違いの空気に椿は思わず顔を顰める。
漸く掴んでいた腕を放すと、思いっきり部屋の奥へと突き飛ばした。

「どわっ!!!?な、何すんだよ!!!」

急に突き飛ばされた藤崎は尻餅をつきながら悪態を突いた。
しかしそれ程度で怯む椿ではなく、ずんずんと藤崎に近寄って襟首を掴んだ。

「単刀直入に訊こう。ガラスを割ったのは貴様たちか?」
「だーかーらー!!!そう言ってんじゃねーか!!」
「なら証拠は何処だ、何かあれば言ってみろ。」
「んなモンねーよ!つかしつけーっての!!自首したんだからいいだろ!!」

椿の手を振り払いながら、藤崎は怒鳴る。
だが思いの他椿は強く襟首を掴んでいて、引き剥がす事が出来なかった。
何度か抵抗しても手を外す事は無く、だんだん苦しくなる息に開放が欲しくて藤崎は咽ながら言った。

「つっ、ばき!!…息…首、絞まって…」
「?…!…ああ、済まない。」

窒息寸前の藤崎の言葉で漸く我に返った椿は、掴んでいた襟首を離した。
首を押さえて、荒い息遣いをする藤崎を見下ろして椿は言葉を続けた。

「どうせまた、誰かの罪を被ったのだろう。何故わざわざ罪を被る?」
「オレらだってんだよ…いちいちしつけーぞ。」
「別に文句を言うつもりは無い。よりよい学園生活の為に真犯人もきっちりと処罰すべきだと思っているだけだ。」
「っ!!だからオレらだよ!スケット団が割ったって言ってんじゃねーか!!!!」
「同じ手は喰わない。寧ろ何故其処までその犯人の為に熱くなるのかが分からん。」
「…分かんねーだろーな。お前みてーに脳ミソ超合金は。」
「……その言葉でハッキリした。どうやら真犯人は他にいるようだな。」
「!!?」

釣り目を大きく見開いて、藤崎は固まった。
遠くで男子生徒の大きな掛け声が聞こえる、きっと誰かがホームランを打ったのだろう。
椿は1つ溜め息を吐いて踵を返した。
真犯人がいる、そしてこれ以上時間を掛ければ仕事の時間が割けなくなる。
扉に手を掛けた時だった。

「待てよ。」
「…何だ、もう用事は済んだ。僕は早く戻って書類を片付けなくてはいけない。」
「何だとはゴアイサツだな…首絞めといてゴメンの一言も無しか?」
「さっき謝っただろう、済まないと。」
「誠意ってモンがねーんだよ!!堅物下マツゲ!!」
「何だと、変顔スベリ男。」
「っ…バーカ!バーカバーカバーカ!!!!!!!!」

最初は格好よく言い始めた藤崎だったが、段々と涙目になり、言葉のボキャブラリーも失せ、何だか酷い状態に成り下がる。
大して椿は腕を組んでぼそりと言うだけだった。
二人の言い争いは夕刻まで続く。
そして、次の日の椿の机は言うまでも無く書類で埋め尽くされていたと言う。




END
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