年齢制限室

□クリスマス
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「クリスマスですよ、零さん」
 彼女はとても楽しそうにシャンパンを手ににこやかにそこにいた。
 まだ未成年の彼女が買ってきたシャンパンは当然ノンアルコールだろうが、見た目だけなら普通のシャンパンとまったく変わらない。クリスマスらしく赤と緑のリボンが付けてある。
「今日は仕事だって言っておいたはずだが?」
 玄関の前で待っていた彼女は寒さで鼻が真っ赤になっている。どれだけの時間を待っていたかは分からないが、そう短くない時間だろうと思われる。
「風見さんにどのくらいで終わるか聞いたんです」
 そういって彼女は僕を驚かせたことをとても愉快そうに微笑む。通りで風見があとの書類整理を自分から買って出たはずだ。
 仕事でこのところ碌に家にも帰っていなかった分、恋人になったばかりの彼女と過ごす時間も作れていなかった。部下にそういった面まで気を遣わせていると思うと上司として情けない気もする。
 だが今はこの寒さの中で自分を待っていてくれた恋人の方が重要だった。
 近付いて彼女の両頬に手を添えるとその冷たさが伝わってくる。
「ふふふ。手、あったかい」
「まったく。風邪をひいたらどうするんだ」
「そうしたら看病してもらえますか?」
 そんなふうに可愛らしく返されてはこちらも笑うしかない。
 玄関の鍵を開け、帰れなんて言える訳もなく彼女を通す。



「プレゼントです」
「ありがとう。開けても?」
「はい。どうぞ」
 けして安物ではないことは包装でも分かる。包みを取り、あらわになった箱を開けると中には
「腕時計か、結構いい値段したんじゃないか?」
「家庭教師のアルバイトを頑張ってみました」
 そういえば、しばらく前にバイトを始めたという話を聞いていた。
 俺が忙しい時はたまにポアロで臨時バイトをしてもらっていたが、それ以外にも短期の仕事を始めたという話だったが、家庭教師だったのか。確かに短期でも時給が良さそうだ。
「大切に使わせてもらう」
 時計をプレゼントとして贈る場合は「共に時間を過ごしたい」だとかいう意味があると聞いたことがあるが、たぶん彼女はそこまでは考えてないと思う。いや、考えてくれているなら嬉しいが、そういう言葉は俺から言いたい。
「俺の方は今日会えると思っていなかったから用意をしてなかった。すまない。
 良かったら明日にでも一緒に買いに行かないか?」
「私、そういうつもりじゃ」
「俺が贈りたいんだ。そうだな…」
 彼女の手を取り、言う。
「指輪でもどうだ?」
 細い指の爪の先に唇を落とす。珍しく肌の色に合わせた薄いマニキュアが爪を彩っていた。マニキュアをすると指が重くなる気がすると嫌がっていたのに、今日ばかりはお洒落のつもりだろうか。
 特別感が悪くない。
 それに、こうやって少しずつ彼女が大人になっているのだと感じられてそそられるものがある。
 目線を上げると爪先へのキスだけで顔を赤く、彼女の照れた表情が映る。
 そういう顔は反則だ。
「せっかくのクリスマスなんだ。
 もっと君を近くで感じたい」
「え…?」
「恋人の部屋に一人で来たということは、そういう期待も多少はしてくれてると俺は思ってるが、違うか?」
「零、さん……」
「俺も男だ。好きな女性にそういう感情だってある。
 それにずっと我慢してきたんだ」
 そこまで言えば彼女はどうすればいいのか分からないという表情になる。
 協力者としていざとなれば力になってくれる頼れる彼女であっても、まだ大学生になったばかりの年相応な女の子らしさが出る。なにより恋愛面に関して普段の彼女は小学生以下の鈍さだ。
「あ、えっと、私……っ」
「初めてだから、ていうんだろ?
 分かってるから全部、俺に任せろ」
 これで初めてじゃなかったら誰が相手だったのかとことんまで聞きだす。赤井はないだろうが、まさかそういう関係になっていたとかだったら今すぐ赤井の脳天に銃を突きつける。
「その、零さんのご期待に添えるかどうかは……」
「好きな人とするんだ。満足するに決まっている」
 俺の言葉に彼女が言葉を詰まらせ、これ以上の言い訳が出てこないことを表す。
「……お任せ、します」
 小さく呟いた可愛らしいその言葉を聞き、俺は彼女の唇を奪った。
 何度か味わったことのある唇が今日はいつも以上に甘く感じる。アルコールは摂取していないのにこの雰囲気に酔ってしまったのかもしれない。
「続きは、ベッドで」
 ここでこのまま迫りたいが、彼女の唇から離れる。
 初めての夜を一緒に過ごすのならベッドの上でとことんまで甘やかして優しくしてあげたい。
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