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□ヨメシュートメ問題
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「何?」



埃の積もった狭くて汚い部室。
壁からは冷たい秋風が差し込んでくる。
もちろんストーブなどの類は一切無い。


部員数二人という過疎にも程があるこの部活、新聞部は僕と刈谷美奈の二人だけだ。



「部室なんだからやることは一つ。新聞を作るの!」


「はぁ?何言ってんの?」


文化祭後の記事も書き終わったし、校友会選挙は冬休み前。
当分大きな行事が無いっていうのに。


反論すると、刈谷は眉を吊り上げて


「その意識がダメなの!
部活なんだからもっとこう……ね?
無料配布なのに購読者が生徒の半分にも満たないってどういうことよ、コレ」


単純に知名度も無ければ人気もないってやつなんだろうな。


刈谷は声を張り上げる。
黒髪のショートヘアがサラサラと揺れた。



「というわけで!
人気を上げるために私は考えました。
人気がある奴の記事を書けばいいのよ!
そうすればみんな読んでくれるはず」


「人気がある?
数学の豊川先生とか、体育の前畑先生とかか?
女子に人気あるじゃん」


「はぁ?
あんな気持ち悪いオッサンの何処がいいのよ!一部の女子だけよあんなの。
私が記事を書きたい人間はただ一人……」



嫌いって言ってる刈谷が一部なんじゃないかな……。


僕から見てもあの先生二人はカッコイイと思う…。
でもそんな刈谷がこれから提案する人物が誰だか気になった。



「二年A組クラス委員長、岡 賢悟くんっ!
眉目秀麗、容姿端麗、文武両道……とにかくそんな言葉が全部当て嵌まっちゃうくらいスゴイの!!
身長も180くらいあるし……カッコイイのよぉ」



「ふーん」



恍惚とした表情で刈谷は言う。黒板に右手で名前を書きながら。
そんな目立ちそうな奴下の学年にいただろうか……180センチのイケメン…



……羨ましいですよ!!
僕の身長?155センチしかありませんが何か?



「で、写真撮ってインタビューしてきてよ」


刈谷は僕が顔を歪めていることなんて全く気にしていない。


「そんなにそいつが好きなら刈谷が行けばいいのに」


「ダメ。モテモテなんだから最初に私が行ったら他の女に警戒される。
ある程度取材してから私が行って、彼の金のハートを溶かしてあげるのよ!
他の水酸化ナトリウム女なんかとは比べものにならない、王水の私がね!」


何を言っているんだか。
と思いながらも、僕はその男に対する興味がわいてきた。
テーブルにあるデジカメをギュッと握りしめる。



「よし、分かった!
僕、行ってくるよ」


「ありがとー逢妻っ!
逢妻のそういうとこ大好きっ!!」


鞄から筆箱とノートを取り出し、シャープペンを胸ポケットに差し込んだ。
これから会うことになるであろう人物に、期待を膨らませながら。



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