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□優しさの定義
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カチ、カチ。


マウスをクリックする規則的な音が、狭い室内に響き渡る。

パソコンのディスプレイに短い髪の少女が、淫らな姿をして映っていた。
何度目か分からないため息を俺が漏らすと、先程からパソコンでゲームをしていたハルが振り返り、抗議の声をあげる。



「さっきからため息ばっかりついて。何なんだ、嫌がらせか」



「うん、嫌がらせ。暇なんだよ」



「…はぁ。見れば分かるだろ、忙しい。
静かにするか帰るか、どちらかにしろよな」




今日もハルは不機嫌で、まともに会話なんかしてくれなかった。
ああ、ハルの目の前にある箱が恨めしい。


日中はほぼ物置と化しているベッドの荷物を押し退けて寝転がっている俺。

ひたすらデスクトップ上の少女との性行為に励んでいるハル。
同じ部屋にいるのに、ろくな会話すら交わせない。



「かすみんは俺の嫁」とかなんとか呟くハルを無視して、積んであるアニメ雑誌を読むことにした。



「エロゲーキャラ大辞典」とかいう分厚い本を広げると、兄妹、巨乳、SMなど、様々な趣向の人向けにカテゴリ分類されている。

どうせしばらくの間は暇だし「かすみん」とやらも確認してみようじゃないか。
俺に背を向けていたハルに問い掛ける。



「ね、ハルってなんていう女の子が好きなんだっけ?」


「市ノ瀬かすみこと、かすみんだ。ちなみに俺の」


「あぁ、お嫁さんなんだよね。わかってるから」


「分かればいいんだ」





いちのせかすみ…索引で調べて見てみると「ロリ」だとか「妹」だとか、出てくるのは危ないワードばかりだ。

茶髪のショートカットで、かわいらしい顔立ち。
身長は145pで、胸なんかは平らだ。



それなのに。

『年齢:18歳』って…。
見た目は小学校5年生、いや、それ以下なのに…。
ハルに尋ねると「大人の事情だ」の一言。


…どんな事情だよ。



ハルがオタクだと知って、早3年と数ヶ月。

まだまだ分からないことばかりだ。



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