*黒と灰の聖歌*

□☆VAMPIRE NIGHT☆
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顔を覗き込んできたラビと明るく帰還を喜ぶリナリーに、神田は小さな声で答えた。

「……モヤシに会った。…あいつハンターになって、『神の結晶』を埋め込まれてた。」

「「っ!?」」
神田の言葉に二人が息を飲む。
ラビは頭をガシガシと掻きむしり、リナリーにいたっては顔面蒼白だ。
「…か…んだ、今『神の結晶』って…嘘よねっ!?アレン君死んじゃうじゃないっ!!『アレ』はっ!!」
「嘘じゃねぇよ。…俺だって信じたくねぇっ!!でもなっ!!アイツの左手は昔の肌じゃ無くなってたんだ!!赤黒く変色して、発動したら銀の鈎爪が現れた!!…アイツは『神の結晶』を埋め込まれたんだっ!!」
いらいらしたように目の前のローテーブルに拳を叩き付け、神田は両目を瞑った。

「ユウ。アレンは何て言ってたんさ?」

張り詰めた空気の中、ラビの声が神田の耳に届く。
それは静かな響きで、荒れ狂った神田の精神を落ち着かせた。
「あいつ…俺には付き合いきれない。俺が欲しいのは、モヤシの『血』であって『心』なんかじゃない。俺の言葉なんて二度と信じない。って…あと、モヤシ達を見捨てたとか何とか…。」
神田の言葉にラビは深い溜息をつき、額に手を当てた。
「…マナさんのことさね。」
「…そういや俺が居ない間に何があった?アイツが居なくなった事さえ、ゴーレム越しに知らせやがって。」
ギッとラビを睨みつけ、神田は自らの傍らで飛ぶ黒いゴーレムを鷲掴んだ。
「俺もジジィから聞いただけだから詳しくは知らないさ?」
「かまわねぇ。話せ。」
神田は怒りを抑えながら、ラビとリナリーを見遣り大きく息をついた。

「ユウが元老院の呼び出しで、南半球のバンパイア達と会合しに行った時があったろ?…あの時、俺等の街に'ある噂'が流れてたんさ…。」

暫くの沈黙のあと、ラビは重く口を開いた。
「ある…噂?」
「そう…『バンパイアの街の情報を、ハンター協会に漏らした人間が居る』って噂。」
神田の言葉に答えたのはリナリーで、その顔は苦渋に満ちている。
「当時、バンパイアの街にはアレンの父親…マナさんだけしか人間は居なかった。アレンやマナさんに近しい奴らは、そんなことないって言い張ったけど…ユウが居ない隙にマナさんを…。」
ラビの拳から血が滲むのを、神田は真っ白になった思考のなかで認識できずにいた。
「……殺したのか?あの人をっ!?マナさんはアイツのっ!!たった一人の肉親だっただろうっ!?母親はダムピールのアイツを産んだ後死んじまって、マナさんがアイツの結婚式をどんだけ楽しみにしてたか分かってなかったのかっ!?」
ガツンっ!!と神田の拳がローテブルを叩き割った。
滲み出る血液さえ神田は構わず、ソファーから立ち上がる。
「神田っ!?何処に行くの!?」
「アイツに会いに行く。」
慌てて止めようとするリナリーを一蹴し、神田は翼を広げた。
「ユウ、マナさんを殺した奴らは…アレンが狩ったらしい。例えアレンがハンターを辞めてただのダムピールに戻っても、この街に居れないかもしれないさ。…それでも行くか?」
ラビの重い言葉。
神田は一度だけ立ち止まり、振り返らずに二人に言い放った。

「…アイツが此処に居れないなら、俺が一緒に行く。アイツは…アレンは俺のパートナーだから。」

その言葉と共に、神田は夜の闇に消えて行った。
「…神田、アレン君死なせたら殺すわよ。」
「そうさね…アイツ等が帰って来れるように、こっちの元老院と話しつけるさ。」
涙目で夜空を見上げるリナリーの肩を叩きながら、ラビは今後おこりうる事柄への対策を練っていた。

 
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