*黒と灰の聖歌*

□〜暁の唄〜
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結局神田は清明宅で夕餉を食たあと、縁側で十六夜の月を見ながら清明と話していた。
「…清明。俺に式をつけろと言うが…俺は誰かを側に置く気になれん。」
「…何故だ?神田程ならば、強い式を従える事が出来るだろう?」
腐れ縁の二人にとってお互いの技量や力量、それら全てを把握しあっている。
清明が式神を従えた時に、神田もその実力を持っていたハズ…。
清明がいくら説得しても、頑なに神田は式神を従えることを良しとしなかった。
仕事帰りのまま清明の家に寄ったため、神田は仕事着の直衣(のうし)を纏ったまま夜警を開始した。
その夜は珍しく魑魅魍魎や雑鬼も居なく、空が暁色に染まりはじめた。
今日から物忌みの神田は、自分の邸へ帰る為家路を急ぐ事にした。その時だった…。
「〜〜〜♪」
何やら聞き慣れない旋律が耳を掠める。
旋律の出所は対岸の河原…。
神田は訝しい気にそちらに視線を向け…そして言葉を無くしてしまった。
「っ!?」
対岸には白の水干しを纏った少年…。
その衣に負けず劣らず白い、肩に掛かる程の髪…。
閉じられて分からないが大きそうな瞳…。
だが一番目を引いたのは、その髪と同色の狐の様な耳と七本の風に揺れる尻尾だった。
妖…なのに、神田は初めて心を揺り動かされた。
寂し気に紡がれる旋律と、祈るような手の動き…。
何かを探すように揺れる尻尾…。
思わず神田はその白い少年に声をかけた。
「…お前…。妖か?」
ビクッ!?と跳ねた肩に気付き、神田は大急ぎで少年を捕まえる為に対岸へと飛びうつった。
「…俺は神田ユウだ。…お前の名は?」
神田の中で何かが騒ぎ立てるように、気付けばその白い少年の左手を捕まえていた。
その左手は赤黒く、同様に左の額から頬にかけて一筋の裂傷が見受けられた。
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