*黒と灰の聖歌*

□Kasumizuki〜霞月〜
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押し倒されてアレンは焦った。
ナニをするかなんて解りきっている。
女の自分に一番効果的な尋問の仕方…。
それでも神田にならばと、思ってしまう自分の思考に嫌気がさした。

「…言え、村の秘密を。…後の事は俺に任せろ…お前は俺が守ってやる。」

その言葉にアレンの瞳から涙が溢れた。
曲がった事が大っ嫌いで、小さい頃から彼に護られて居た。
養父に引き取られて、大道芸の講演で立ち寄った村の秘密…。
怖くなって養父に手を引かれるまま、逃げ出した。
捕まって、養父を目の前で殺されて、毒薬を飲まされて…絶望した。
神田に話そうと思っても、こんな変わり果てた自分に彼は気付く筈は無い。
だから火付けの重罪を犯せば投獄され、村の内情が分かると思った。
「…村の役場で…国王陛下暗殺の計画を聞いてしまいました…。びっくりしてマナと逃げ出した途端、村の人達にマナが殺されて…僕は、情報を集めろって言われて…。でも…マナを失って、髪も目もこんな色にされた途端…村に火を付けてたんです。」
拘束を解かれた手で、目元を覆う。
流れる涙を神田は静かに拭った。
「…よく話してくれた。あとは俺等に任せろ。」
そう言うと、額に小さなキスをして神田は独房から出て行った。
「…ぇ?…ぃま、キス…?…えぇぇっ!?」
神田の行動によりアレンは赤面し、奇声を発したのはご愛嬌…。



「……つぅ訳だ。」
「ありがとう、神田君。…しかし、神田君の知り合いが火付けか…。特別な理由だとしても重罪…措置を考えなきゃ…。」
軍の長官室でアレンから聞いた内容を話せば、コムイは納得した。
村の離反容疑が固まった為、神田の同期のラビに鎮圧命令がくだされた。
「…コムイ、頼みがある。あいつ…アレンは俺が監視する…だから、釈放してやれねぇか?」
滅多に感情を表に出さない神田が、不安そうに漆黒の瞳をさ迷わせコムイを見る。
「…神田君。…分かったよ。ただし、村の国家反逆罪とアレン君の養父殺害の件がきちんと裁かれてからだよ?…あと、……。」
「っ!!…分かった。」
コムイの言葉を聞き、神田は長官室から退室した。



金属の軋む音と共に、神田がアレンの居る独房に姿を現した。
「……アレン。」
「ユウ兄さん…?」
閉められた扉に再び鍵をかける姿を見て、アレンは疑問を浮かべつつ神田を見遣る。
寝台に座っていたアレンに近づき、神田はその白い顎を捕らえた。
「…済まない。上の連中からの…命令なんだ。」
その一言に、アレンは悲しそうに瞳を揺らした。
「命…令?…ユウ兄さんは命令だから…僕を抱くの…?」
神田は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受ける。
そうじゃない、と首を振りアレンを掻き抱いた。
「そうじゃない!…俺はお前だから抱く。…お前を護る為に…証と、誓いと……お前を側に感じたいからだ…。」
 

 
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