*黒と灰の聖歌*

□GRANDCROSS
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神田が囚監されて来て五日目の夕方。
「神〜田ぁ〜♪来ましたよ〜♪」
ニコニコと神田の独房に入って来るアレンに、神田も薄く笑って対応する(だが、普段ポーカーフェースな為か全く気付かれない)。
「今日は良い知らせが有るんですよ!」
そこらの女性よりも可憐に微笑む様に見えるのは、神田がアレンに惚れた弱みだろうか?
それでも友人のようなこの関係に、一歩を踏み出す事も出来ずにいる。
「で?良い知らせって何だよモヤシ?」
その白い髪を乱暴にだが撫でるのが、投獄された神田の心を落ち着かせていた。

「モヤシじゃないですっ!!そうなんです!!神田は此処から出られるんですよっ!!」

一瞬、アレンが何を言ったのかが分からなかった。

「ルベリエ検察官の不正が証明されましたっ!!神田の事件は賄賂を受け取って、懲役刑がついたと判明したんです!!」

嬉しそうに笑うこの看守は…今、何て言った?

『神田ハ此処カラ出ラレルンデスヨ』

     それは…

   神田にとって…

死刑に等しかった…。

「そぅ…か。」
振り絞った声は掠れていた。
喉の奥が渇く…。
震える腕を隠そうとアレンの頭から手を除ければ、不思議そうな銀灰の瞳が伺えた。
「神田…?どうしたんですか?何だか…顔色が「なぁ、モヤシ。」
除けた腕でアレンの細い腰を抱きしめ、また言葉を紡ぐ。

悲鳴を上げる心を無視して…

   だから…

「もし俺が出所して、お前がまだ俺に会いたいって思うなら…」

   神田は…

「マテールの中央広場の'歌時計'に来い。」

 賭ける事にした…

ただ一度だけ抱きしめ、アレンの肢体の細さや熱、匂いや吐息さえ覚えようと瞳を閉じた。

アレンを解放すれば呆然として、退室を促せばフラフラと独房を出て行った。
「…失…恋か…。」
アレンは自分が言った事を理解したのだろうか?
それは分からないが、神田はこの監獄に来て初めて寝れない夜を過ごした。



   〜翌日〜

「……じゃあな、神田。ティエドールに宜しく伝えておけ。」
所長…クロス自ら神田の出所を見守るが、担当看守だったアレンは見当たらない。
ついキョロキョロと辺りを見渡してしまう。
「…アイツが…アレンが気になるか…?」
ビクリ!!と肩が揺れた…。
そんな神田の様子を気にするでも無く、クロスの瞳は真っ直ぐ見詰めている。
「…アイツは今日は非番だ。…何でも大切な用事が出来たとか言ってたがな…。」
フゥ…と紫煙が吐き出され、ニヤリと片方の口角を吊り上げたクロスに神田は目を見開いた。
「アイツはな…、俺の旧友夫婦の忘れ形見なんだよ。アイツ等の願いで後見人になったが、…アレンは一線を引いて人と接してた。」
神田の眉が寄せられ、明らかに不審そうにクロスを見る。
「アイツがな両親の死後、親密に接したのは…テメェが初めてなんだよ。…最初っからテメェが心配するような事何ぞねぇんだ。」
ほら、サッサと行きやがれ。
そう言い残し、クロスは所内に戻ろうと踵をかえした。
「っ!!アイツをっ!!アレンを貰って行くっ!!」
クロスの背にそう宣言し、神田はさほど大きくないトランクを片手に町の方へ走り去って行った。
「…ったく、世話の焼ける弟子だな。…これで良いんだろ…なぁ、マナ?」
紫煙を吐き出しながら見た空は、青く高く…旧友達が逝った日と同じ色だった。

 
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