†闇と翡翠の聖書†

□沈みゆく陽炎
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ドキドキと高鳴る胸を無視し、今までのように少しの皮肉を含ませて逃げる。
彼にこれ以上嫌われたくない。
今の関係を壊したくない。
これ以上近づいて、最悪の道を辿る位なら…
そんな事を考えるハリーをよそに、スネイプは一歩、また一歩とハリーに近づいて行く。
「…我輩は貴様の課題を見に来たのではない。それに…『その』課題は後々提出される方なのだろう?」
ビクッ!とハリーの肩が揺れる。
慌てた様に、闇の魔術に対する防衛術の教科書を奥に押しやっている。
「『アクシオ』。」
一振りの杖の動きと、短い呼び寄せ呪文。
たったそれだけで、ハリーが隠そうとしていたモノが暴かれてしまう。
「…何故ここまで完成しているのに、コレを提出しないのかね?」
スネイプの声がまた一層低くなる。
怒っているように聞こえ、ハリーは両目を強く閉じた。
「ポッター、答えたまえ。」
「…先生が、いつも僕を……その、嫌っている様なので……それなら出来の悪い生徒で居れば、先生は僕の事を……嫌いで居れるでしょう?」
ポタッ…と床に何かが落ちる音が聞こえた。
それがハリーの涙だと自覚する前に、ハリーは闇の腕に抱き込まれた。
「馬鹿者だなお前も我輩も。…我輩はお前に幻影を求め過ぎていると…校長から忠告された。……我輩はお前を…『ハリー』を嫌っている訳ではない。」
その言葉にガバッとスネイプを見上げれば、見たこともないような優しさを含んだ瞳。
「…ハリー……ここのマグル達は確か昨日から旅行に出ていたな?」
「…へ?…ぁ、はい。明後日まで僕一人ですけど…?」
声音さえ若干甘く聞こえ、ハリーは恥ずかし気に体を離そうと身動ぎする。
「……校長からの許可も頂いている。……我輩と明後日まで共に来い。」
「…はい!?」
了承の意は伝えてないのに、ハリーはまたスネイプに強く抱き締められ、いつの間にか課題や着替えが詰められた鞄と共に『姿くらまし』をされた。



目を開ければ、小さなログハウスの前にいた。
「…入りたまえ。」
優しくエスコートするスネイプに促されるまま、ハリーはそのログハウスの中に足を踏み入れた。
「…先生、僕…何で?」
疑問は尽きる事無く、スネイプに的を射ない質問を投げ掛けてしまう。
そんなハリーを見てスネイプはクツクツと喉の奥で笑うと、ハリーを広いソファーに座らせ自らも隣に腰かけた。
「紅茶でいいかね?」
「…ぁ、はい。」
杖の一振りで用意された紅茶…。
隣に居るスネイプに緊張しながらも、ハリーはそのカップに口を付けはじめた。
独特の味と薫りをもつアールグレイ。
何となく隣に座る彼に似ていて、ちょっとだけ肩の力が抜ける。
「ハリー…、我輩はお前に伝えたい事がある。」
「はい?」
言いよどむスネイプに、ハリーは首をかしげつつ紅茶に口をつけた。
豊かな香りに、ストレートの苦味。
それらに舌鼓を打ちながら、スネイプの言葉を待った。

「……許してくれとは言わない。我輩は…死喰い人だった。」

スネイプは断腸の思いで自らの過去を話し出した。

 
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