†焔と鋼の懺悔室†

□見つめる先は光か闇か…
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「…吹雪いて来たな…。」
季節が真冬に変わったころ北方からの異常気象により、ここイーストシティーにも雪が降り注いだ。
東方司令部の司令官であるロイ・マスタングは、つい先程この街にやって来た子供へと想いを馳せた。

鋼の錬金術師…。

若干12歳にして国家錬金術師の試験をパスし、右手左足を機械鎧(オートメイル)へと変えた…金色の少年。
何時の頃からかロイの心を占めるのはその少年で、彼を…エドワード・エルリックを意識しない様に次々と女性と付き合った。
だが虚しさのみが心を支配し、時折狂暴なまでの衝動に駆られてしまう。
「……それにしても遅い。」
件の彼は、かれこれ4時間程前に資料室へ向かった…。
資料室は先日暖房設備に異常がみられたばかりで、いまだ修繕されていない筈だ。
終業時間もまわっている事だ、今日はあの子を食事に誘おう。
そう思い、ロイはコートを片手に資料室へ向かった。



資料室では一つの寝息が、弱々しく紡がれていた。
彼の国軍大佐の想い人であるエドワードは…、生死の淵に佇んでいたのだ。
この寒い季節にコートはびしょびしょに濡れ、暖房も入って居ない部屋で長時間居れば風邪から肺炎を引き起こしかねない。
エドワードは無自覚だったが、既に風邪をひいている状態での居眠りは…死を予感させるに十分だった。

−コンコン…−

『鋼の…?入るぞ?』

エドワードは薄い意識の中、黒髪の将校の声が聞こえ細く瞳を開ける。
だが、体全体が重くて動かない。
「っ!?鋼のっ!!どうしっ…熱…風邪かっ!?」
捕まれた肩はロイに服越しだというのに、エドワードの異変を知らせた。
ロイはすぐに設置されている通信機に駆け寄り、軍医を自らの執務室に来るよう命じエドワードを抱えて資料室から駆け出して行った。



「…ぃ…炎ですな。」
「…か、…り……ざいます。」
ふわふわと安定しない意識の中、エドは男性二人の声を聞いた…。
一人は初老の軍医…毎年の健康診断で、自分のもう一つの秘密を知った数少ない人物の一人。
もう一人の声は、意識が飛ぶ直前に聞いた直属の上官の声だ。
そう脳が判断した途端エドの思考はクリアになり、自らの置かれている状況に気付き青ざめた。
『ば…バレタ!?大佐に…性別がっ!!』
逃げないと問い詰められる…。
そう思うのに体が言うことを聞いてくれず、怠慢な動きでしか行動出来ない。
「鋼の?入…っ!?何をしているっ!?」
「ィ…ャ、たぃさ…見なぃでぇ…!」
荒い息の中、エドが紡ぐ言葉が弱々しくロイは戸惑う。
だがいまだ逃げようともがくエドに苛立ち、ベッドに押さえ付けた。
「君が性別を隠していた事について、確かに聞きたい事が山とある。…だが、今の君は病人だ…だから一つだけ確認する。アルフォンスが黙って居ると言う事は、'彼'も'彼女'なのか?」
ロイの言葉にエドは震えながらも一度だけ、首を縦に振った。
「…君の事だ。大総統は…この事実を知っている。…中尉も知って居るんだな?」
またエドは頷き、その金の双眸を涙で滲ませた。
まるで謝罪するかの様な色を滲ませた瞳に、ロイは苦笑しながらエドに布団をかけてやる。
「気にしないさ…。君がいつも通り元気になってから…食事に行こう…話したい事が有るんだ。」
クシャリ…と解かれた金糸を掻き混ぜ、ふわりと笑ったロイにエドの鼓動が高鳴った。
「…早く治しなさい。アルフォンスには連絡しておくから。」
そう言われ、エドはまた眠りに落ちた。
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