*黒と灰の聖歌*
□「闇に溶ける言の葉」
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欲しくて…欲しくてたまらなかった。
あの白銀の心を手に入れたかった。
自分の色に染め、他を見ないように鎖で繋ぎ、その肌を蹂躙したかった。
アイツを傷付けていると知っても…沸き上がったのは、他の奴らへの優越感。
自分でも、おかしいのは自覚した。
でも…
欲しいんだ。
「闇に溶ける言の葉」
「何で神田は僕に突っ掛かって来るんですか!?」
廊下に響いた声は向けた相手に届いて霧散する。
それほどに人通りの少ない教団内の廊下の一角で、白と黒のエクソシストが対峙していた。
「…はっ。そんなの、テメェが俺の視界に入って来るからだろうが。」
まるで当然と言うように、酷い言葉を黒いエクソシスト…神田ユウは白い彼…アレン・ウォーカーに向けた。
その純白を散らしてしまいたいという欲望を、何とか理性で押さえ付け左の額から頬に走る呪いの傷に目をやる。
視線に居たたまれなくなったのか、アレンは神田を見ずに口走ってしまった…。
神田の逆鱗に触れる言葉を…。
「神田はいつも僕を目の敵にして…僕が嫌いならそう言って下さいっ!!もう、任務以外で貴方に近付いたりしませんからっ!!」
逃げるように俯いたアレンから言われた言葉で、神田の中の何かがキレた。
『俺が嫌いなのか?』
『離れて行くのか?』
『俺以外をその心に住まわせるのか?』
嫌だ
嫌だ
嫌だ
イ ヤ ダ !!
ガッ!と鈍い音が廊下に響き、二つの影が重なった。
腕の中に倒れ込んだアレンに、神田の顔には歪んだ笑みが浮かんでいた。
アレンは顎に走った痛みと、肌寒さで目覚めた。
ぼぅ…っとする意識の中辺りを見渡せば、ひび割れた窓硝子と花の浮かぶ花瓶のような物…。
そして、自らの一糸纏わぬ肢体だった。
「えっ!?何?…なんでこんな格好「…目ぇ、覚めたかよ?モヤシ。」
慌てて裸体を隠したと同時に聞こえた声に、アレンは驚愕の色を滲ませた瞳を向けた。
「か…んだ?」
神田の声はいつもより暗く、漆黒の瞳は底の見えない夜の海の様でアレンを映して居るのかさえ分からない。
アレンの中の何かが警鐘を鳴らす。
身の危険と肌寒さからカタカタと震えがはしり、知らず知らずのうちに瞳が涙で滲んだ。