*黒と灰の聖歌*

□〜暁の唄〜
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時は平安。魑魅魍魎や、妖怪変化の類いが人々を脅かす時代。
宵闇に包まれた京の都の一角で、背まで伸びた黒髪を頭の高い位置で結い上げ墨染めの狩衣(かりぎぬ)を纏った青年が何かを追うように走っていた。
「チッ…いい加減っ…調伏されやがれっ!!」
胸の高さで構えた両の手が、九字の呪印を刻み術式が完成する。
「臨める兵 闘う者 皆陣列れて 前に在り 万魔拱服!!」
呪印が放たれれば青年よりも少し前にある地面から、大きな化け物が姿を現した。
『憎イ…陰陽師…殺サセロっ!!藤原ノ者ヲ許シテナルモノカァっ!!』
バタリバタリと黒い霞みの様な手足をのたうちまわらせ、化け物は憎悪を口にする…。
「…アンタ達の憎む奴は死んだ。これ以上殺さなくて良い。」
ジャラ…と静かな道に数珠の音が響く。
「俺が道を教えてやる…進むか進まないかはアンタ達次第だ。」
一呼吸置き、青年の口から祝詞が紡がれる。
青年と化け物を囲むように、青白い光が暗闇に浮かぶ。
「この術は凶悪を断却し 災厄を打ち祓う…。」
パァンッ!!と一つの柏手が響き、まばゆい光りが辺りを満たした。
光りが収まれば化け物はいなくなり、そこに佇むのは青年だけとなっていた…。



「さて…神田殿。いい加減、式神を使役しないのかね?」
京の都にある陰陽寮。
そこには彼の有名な安倍清明が居る。
彼は最近、想いを通わせた姫君を娶ったばかりだと聞いていた。
青年…、神田ユウに話し掛けてきた張本人である。
「ご冗談を…清明殿。私は貴殿より力劣ります。式神など付けれるほどの実力はございません。」
無愛想を地で行く神田だが、この青年はあまり気にとめることなく神田に絡んでくる。
「それよりも神田殿。今晩宜しければ私の邸へおこしください。」
若菜も喜びます。とのたまう清明に、神田は諦めと疲れを滲ませた返事を返すしか無かった。
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