*黒と灰の聖歌*

□Kasumizuki〜霞月〜
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『マナァァ!!』
『アレンッ!!走るんだっ!!村の連中に捕まってはいけないっ!!』
心優しい養父は、村の秘密を知ってしまった僕を逃がそうとして…目の前で殺された。
『イヤアァァァッ!!』
村の人達が僕に一言告げた言葉…。

『アレン。殺されたくないなら'国'から軍の情報を盗め。』

知っちまったんだから役に立てよ?
そう言い残し、養父の遺体と共に残された僕は……

村に火を放った。



 霞月〜kasizuki〜


首都にある軍の司令室で漆黒の出で立ちの青年と、最高司令官の白い軍服を着た男性が話していた。
「神田君、呼び出して済まないね?」
「構わん。で?今回の仕事はなんだ。」
神田と呼ばれた青年はイライラと最高司令官…コムイに視線をやる。
「…実は君に、…ある娘の看守をしてほしい。」
「はぁ!?看守だと?ふざけんなっ!!何で軍人の俺「彼女の村は国家反逆の噂が有った。彼女は秘密を知っているだろうし、そのせいで養父を亡くしている。」
ぴくり…と神田の肩が揺れる。
「…尋問と…場合によっては実刑か?」
「そうだよ。彼女は自分が村に火を放った事は認めている。火を放った動機は養父を殺された為。だがそれ以上は何も話してくれなくて…。」
正直お手上げだよぉ〜!!とだらし無い声を出すコムイに、神田はまたイライラする。
「とりあえず俺はソイツの独房に行く。'何番目'だ?」
「あぁ、14番目だよ。」
よろしく〜。とやる気なさ気に手を振られ、脱力感に苛まれつつも神田は14番目の独房へ向かった。



14番独房に着いた神田は、監視用の小窓から中を覗いて言葉を失った。
白銀の髪に透き通る肢体の白。窓から射す月明かりに手を組み、聖母の如く祈りを捧げていた。
「…おぃ。」
「貴方が…僕をマナのトコロに逝かせてくれるの?」
扉越しの声に彼女…アレンが振り返った。

濁った灰色の瞳。

全てに絶望し何もかもを失った瞳に、神田はイライラを隠すのに必死だった。
濁った瞳にもう一度光を燈したくて、煌めく瞳はきっと銀色だと思ったのだ。
ただ見てみたくて、神田は彼女に声を掛けた。
「……おい、モヤシ。」
「…は?…誰がモヤシですか。それに、そう呼んで良いのは'あの人'だけなんで止めて下さい。」
'あの人'と言った時、アレンの纏う空気が変わった。
懐かしむ様な、愛おしむような…そんな感じだ。
「テメェ、ソイツの為に話そうとか思わねぇのか?逃げようとか、死にたくないとか、普通の奴等なら命請いや罵倒の嵐だぜ?」
賭けてみようと発した言葉も、アレンは首を振りただ否定する。
「'あの人'は…ユゥ兄さんは曲がった事を嫌う人です。…僕が養父を殺されて、怒りで我を忘れていたのだとしても…。」
許さないで…そう訴える様なアレンの瞳に、一瞬昔育った孤児院の少女を思い出した。
『名前が無い』と言った少女に自分が『アレン』という名を上げたのだ。
慌ててコムイから渡された資料を見れば、名前の場所に『アレン・ウォーカー』とある。
「…ァレン?何でっ!?テメェがこんな所に居んだよ!?」
ガチャッ!!と扉が開かれ、アレンは初めて看守を…神田を見た。
「ッ!?」
「どういう事だ。養父を殺されただと?村に火を付けて…幸い死人や怪我人は居なかったが、…火付けが重罪なのは分かってんだろ!?」
一気にまくし立て、アレンの胸倉を掴む。
怒りで帯刀していた刀を抜きそうになった。
「ッ!!じゃぁ!どうしろっていうんですか!?マナは殺されて!!村の人達に毒薬を飲まされて!!亜麻色だった髪も、空色の目もこんな色にされてっ!!村の秘密をバラせばこの髪色ですぐに狙われるっ!!それならっ!!」
両目に涙を溜め、アレンは唇を噛み締めた。
「…死罪になったほうがいいってか?…ふざけんなよっ!?」
ガタンッ!!と備え付けのベッドにアレンを押し倒した。
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