*七色の玩具箱*


□『おかえり』
1ページ/3ページ

『おかえり』

家を持たない僕ら。

いつも離れて戻ってくると、マナはこの言葉で迎えてくれた。

抱きしめて、頭を撫でて。

いま僕の記憶の中にある思い出のアルバムは、マナの愛情でぎっしり詰まってる。

お金もお菓子もないけれど、愛って最高の財産だと思う。


   「おかえり」
「チッ、ここにいたのかよ」
背後からかかった声に、頬を伝っていた涙を拭った。
任務先が偶然ここから近くて、任務を終えるといつのまにかふらふらとここにたどり着いた。
地面に小さく刺さった十字架。
ここには大好きだった養父の体だけが眠っている。
「すみません、勝手な行動して」
「俺はいいが、あの鴉の監査への言い訳を考えろ」
「すみません・・・」
行かなきゃならない。
離れないと。
だけどどうしても、足が動かない。
神田へと体が向かない。
泣かないように涙をこらえるのが精一杯で。
すでに泣き終えたブサイクな顔を見られるのも嫌で。
立ち往生している僕の背後で、先ほどよりも近く神田の声がした。
「・・・・・・墓か?」
「はい。僕の、養父が眠っています」
「それを探しに離れたのか?」
「単独行動へは反省してます」
「いや、しなくていいと思うぞ」
驚いて、俯いていた顔を上げて、任務後はじめて彼の顔を見上げた。
泣きはらした目が痛い。
だけどしっかり彼の姿を見た。
彼は笑いもしなければ怒りもしない、普段のままの無表情。
戦闘で誇りに汚れた黒い団服と髪。腰には愛刀。
そして、とてもカッコいい僕の恋人。
「単独行動じゃない。俺も共犯になってやる」
「なに馬鹿なこと言ってんですか・・・」
「これで納得するか?」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ