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□隠れ家での過ごし方
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―――軽い足音が聞こえる。
自分の隠れ家にある一番奥の椅子に背を預け、八雲は天井を見上げながら思った。
その足音は次第に大きくなっていき、やがてはこの部屋の前で止まる。
そして足音の主は懲りることもなく、毎回同じ行動を繰り返す。
「やぁ!」
ノックもせずに扉が開き、小沢晴香が顔を出した。
八雲は天井に顔を向けたまま溜め息をつくと、瞳を閉じた。
「……ノックという言葉がある」
部屋に入るなり、天井を向いたまま話し始めた八雲を見て、晴香はきょとんとした。
「ドアを叩くことで自分が来たことを相手に知らせ、部屋にいる者に入室の許可をとる際などに行う―――知っていたか?」
そう言うと、晴香は頬を膨らませ、腰に手をあてた。
「それくらい知ってます!私だって高校を出てるんだから!」
「その割に君は常識がなっていない。それに注意力も欠けすぎている。君の母親公認の、だ」
八雲は体勢を戻し、晴香を見た。
「はいはい。どうせ私は常識も注意力も無いですよーだ」
べーっと舌を出し、晴香はいつもの椅子に座る。
「―――で、今日は何の用だ」
八雲は机に頬杖をついた。
「んー。特に用事があるって訳でもないけど……八雲君、元気にしてるかなって」
そう言って晴香は笑う。
「……。」
八雲は再び溜め息をつき、眉間に指をあてた。
(……人の気も知らないで)
「どうかした?」
八雲の心の声が聞こえる筈もなく、晴香は八雲を覗きこんだ。
「……何でもない」
「そう?」
少し気がかりそうな表情を浮かべた晴香だが、その後は別の話題を話し始めた。
しばらく時間が経ち、八雲はふと時計を見た。
すると夜の7時をまわったところだった。
ただ晴香の話をひたすら聞いているだけだったのだが、意外にも時が経つのは早かった。
(よくこんなに話題が続くものだ……)
口には出さなかったが、そう思った。
こんな時間になるまで聞き続けていた自分が言えることではないが。
「……ところで、君はいつまでここに居座るつもりだ」
ちょうど話と話の間のところで八雲は言った。
「え?」
晴香は腕時計を見る。
「わっ!もうこんな時間だったんだ!」
「君が性懲りもなくべらべらと話しているからだ」
八雲が言うと、晴香はムッとした顔で軽く睨んできた。
「どうせ私はお喋りですよー」
晴香は立ち上がり、帰り支度を始める。
「帰るのか」
「八雲君が言ったんじゃない」
「……僕はそんなことを言った覚えはない。だが、帰るのなら送っていってやらないこともない」
「え!?」
晴香は驚いた顔でパチクリと瞬いた。