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□自分にできること
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ギルド「凛々の明星」は創設されて数ヶ月の小さなギルド。

今まで様々な依頼を受けてきた彼らは「何でも屋」として世界に定着し始めていた。

過度な営利を求めない、平民のためのギルド。

もちろん楽ではないことも多い。


―――それでも。

こんな事になるなんて、誰もが予想をしていなかった。












「……よっ…と。エステル、足元気を付けろよ」

「あ!ユーリ!待ってくださ……きゃあっ!」

足下にあった木に引っ掛かり、エステルは尻もちをついてしまった。

「―――また豪快に転んだな。」

「うぅ……。ユーリ意地悪です……」

口端を上げて笑うユーリを見上げ、エステルは膨れた。

「ハハ、悪かったって。ほら、手ぇ出しな……っと」

そう言って、ユーリは手を伸ばした。

「あ、ありがとうございます……っ」

「どーいたしまして。―――さて。あいつら、ちゃんとやってっかなー」

エステルが立ち上がったことを確認すると、ユーリは辺りを軽く見渡した。





ここはエフミドの丘の奥地。辺りにはユーリとエステルしかいない。

何故、二人がここにいるかというと―――

数時間前、バウルに運んで貰っていた時にさかのぼる。









「エフミドの丘に住み着いた魔物を退治して下さい……か」

「今回は結構大変そうだよね。魔物の数、多そうだし」

「……あら。少しくらい手応えがあった方が楽しいと思うわよ、私」


エフミドの丘へ向かう途中、ユーリたちは依頼書を見ながら話していた。


偶然、ユニオン本部に行った時に受け取った“凛々の明星”にあてた依頼書。

魔物を倒して10万ガルド。

けして悪い仕事ではない。

悪い仕事ではないが、今回の依頼には気になることがあった。

それは、依頼主の顔も名前も、誰も分からなかったということ。

本部の人の話しによると、気がついた時には、すでにに依頼書が机上に置いてあったらしい。


その際に誰も依頼主の姿を見なかったというのだから気がかりだ。

何にせよ、指名があったからには引き受けるが。









依頼について話していたユーリ達だったが、突然レイヴンが大げさに溜め息をついた。

「はぁ……。おっさんには骨が折れる仕事だと思うな〜」

「んじゃ、折れるまで頑張ってくれ」

ユーリは依頼書から視線を動かさずに言った。

「ちょっと。青年酷くない!?」

レイヴンはユーリを軽く睨み付けると、ギャアギャアと騒ぎだした。



「……ばかっぽい」

「ま、まぁまぁリタ、そう言わずに……」

「……バァウ」

リタは腕を組みながら軽く睨み付け、エステルは苦笑、ラピードは近くで丸くなっていた。



「―――でもさ、本当に手伝って貰っていいの?これギルドに来た依頼だよ?」

カロルは視線を凛々の明星以外のメンバー、エステル、リタ、レイヴンに向けた。

「そう言ってくれる!?実はおっさん、年のせいか足腰が痛くて痛くて……」


ゲシッ



「ったく。良いっていってんでしょ!さっさと片付けて、次の所に行くの!」

「……リタっち……ひどい……」

リタから脚蹴りをくらいながら、レイヴンは泣く泣く黙るしかなかった。



自分達はまだ旅の途中。



それでも、この中で依頼を“ほっとこう”と考える人は誰もいない。

だから、みんなで手伝うことにした。

それが旅を進める一番の近道だと判断したから。

魔物自体は今のユーリ達にとって、それほど強い相手ではない。

だが、安全を考えて2、3人のグループに分けて丘を歩くことにした。



そして、今に至る。


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