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□21年の決別
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―――こんな夢を見た。




半月が綺麗に輝いているある夜のこと。

下町の広場に1人、大事そうに何かを抱えながら歩く女性がいた。

彼女は金色の長い髪を持っており、加えて端正な顔立ちをしていた。

夜風が吹き、髪がなびく。それはまるで絵に書いたような美しい光景だった。


やがて彼女は噴水の前で足を止め、抱えていた――生まれて間もない小さな赤子にそっと言葉を囁いた。


「……バイバイ」


彼女は赤子の額にキスをし、ゆっくりと自分から離していった。

赤子の温もりが彼女の腕から消えた時、瞳にはためらいの色が浮かんだ。

しかし自分の感情を押し殺すかの様に目をつぶると、やがて背を向け、歩きだした。




―――置き去りにされた赤子は、去りゆく母親の後ろ姿をだだ見つめていた。

何故自分は置いていかれたのか、何故自分は今1人なのか。

その事も分からずに


赤子はだだ、母親の後ろ姿をじっと見つめていた。



そんな夢だった……








ある日の昼下がり。

フレンは自室でいつものように仕事をしていた。


仕事は相変わらずの忙しさだったが、余程今まで嫌がらせが多かったのだろう。


騎士団長になり、自分に楯突く者が減った分、仕事の量が小隊長時代よりも大幅に減っていた。

そんな貴族達も、今となれば遥か下の階級だが。


フレンはペンを動かす手を止め、ふぅと息をはいた。

頭の中には仕事に対する疲労と……大半を占める“あるもの”があった。


それは―――今日見た夢。


驚くほどリアルな。

それはまるで自分が体験したような……そんな夢。

「……まさかね」

フレンは呟いた。


あり得ない。


思い当たることが無い訳ではない。しかし、それはもう何年も前の話しだ。

―――21年

その数字が脳裏を横切った。

(……あり得ないよ。そんな昔の話)

疲れてるのかなぁと、目をつむって立ち上がり、窓の外を見た。


今日の天気は晴れだったかな。
そんなことを考えながら。


「――よぉ」


「………うわっ!!」


―――天気は素晴らしい程の快晴だった。

それを目的に外を見ようと思っただけなのに、何故今、目の前に親友の顔があるのだろう。


それも木に登って器用なことだ。


「ユーリ!」

「失礼なヤツだなぁ、人を幽霊みたいに」

ユーリはムスッとした顔をして部屋に飛び移った。


「まったく……。僕の部屋に来る時はちゃんとドアからといつも………」

「わぁったって」

ヒラヒラと手を振り、フレンの机の上に座った。


しょうがないなぁと、フレンも、さっきまで自分が座っていた椅子に腰かけた。


「今日はどうしたの?」

「んー?俺が理由もなく会いに来るのは不満か?」

ユーリは口端をあげて笑った。

「――ううん。会えて嬉しい」

フレンは笑った。



「……のつもりだったが」

ユーリは身を乗りだし、フレンの額を指で弾いた。

「いったぁ……」

不意の出来事に驚きながらフレンは額をおさえた。

「なんつー顔してんだよ。騎士団長様」

「え?」

フレンは少し大きな瞳を開いた。

「さっきだよ。辛気くせぇ顔しやがって」

「……そうだったかな」


「ああ。全身からオーラがにじみ出てるくらいにな」

ユーリは軽く笑った。

「……どうした?らしくねぇじゃん」

フレンは視線をそらした。

「……笑わないで聞いてくれるかい?」


「あぁ」

フレンは一瞬言葉に詰まったが、やがて口を開いた。


「……僕の両親、どんな人だったんだろうって考えてただけだよ―――」


(いい歳して何言ってるんだ僕は……)

自分で言っておきながらフレンは恥ずかしくなった。

物心ついた時から自分には両親がいないことを知っていたし、下町ではそんな人が沢山いるから、それが当然だと思って育ってきた。

だから今さらになってこんなことを考えるなんて思ってもみなかった。

それはユーリだって同じはずだ。


だから笑われるか、呆れられるか。どちらかだろう。出来ればどっちも避けたいが。

フレンはそっとユーリの顔を見た。


「やっぱり今の……」
「優しいヤツだったんじゃねぇの」


「え?」


フレンとユーリが口を開いたのは、ほぼ同時だった。


「お前の両親。優しいヤツだったんじゃねえの」

「―――笑わないの?」

フレンは驚いた顔でユーリを見た。

「今のお前との会話に、笑える要素なんてなかったと思うけどな、俺は」

「ユーリ……」

フレンは微笑んだ。

「下町のヤツらとお前、育ちの環境は同じなのに明らかに性格違うだろ?几帳面だし、やけに礼儀正しいし。それにお前、困ってるヤツ見るとどこまでも突っ走っちまうじゃねえか。……親譲り、ってやっぱりあるんだろうな」

ユーリは窓の外を見た。

「……じゃあ、ユーリもきっと一緒なんだね」

少し驚き、顔を向けるユーリにフレンは笑いかけた。

「自分から嫌われ役買ったり、誰かのことを本気で叱ってくれたり……何でもかんでも自分で背負っちゃうとこ。……親譲りなんだね、きっと」

「……。」

ユーリは立ち上がり、フレンに背を向けた。

「―――やっぱ、柄にもねぇこと話すもんじゃねぇな。じゃあ俺帰るわ」

そう言い、ユーリはフレンの脇を通って窓から木に飛び移った。

じゃあな、とフレンを背に言い、軽い身のこなしで降りていった。

珍しく照れてる、とフレンはクスッと笑った。

「……ありがとう、ユーリ」


去り行くユーリを見ながらフレンは呟いた。

やっぱりあれは21年前の自分の記憶だと思う。
根拠はない。しかし自分の中に確信があった。

あの時、僕を捨てた時にためらったのはなぜですか?

僕を捨てたことに後悔はしていますか?


“彼女”に聞きたいことは山ほどある。

けど、もしいつか出会う日がきたその時は。


僕は素敵な人達に出会えて、最高の親友を持ててとても幸せです―――

だから後悔はしないで。
この性格をくれた貴女に、心から感謝します。


――そう言いたいと思う。


Fin


― ー ― ー ― ー ― ー ― ー


めちゃくちゃお久しぶりです、皆様(汗

最近書く時間がなかなか無く、亀な更新の上にとんでもない話を作ってしまいしたよ←orz


でです!
フレンの両親はどんな人かなぁ〜と考えてたら出来た話です!

きっと彼の王子様てき美貌は母親譲りだと思うんですよね、何となく!
あ…聞いてませんね、ごめんなさい(笑


では、次の更新を気長に待っていてくれると嬉しいです(^^)!!
それでは☆


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