※嫉妬+鬱





叫び倒した部屋はカラフルな光塗れで、モノな声など誰にも届かない。





小さな部屋では態とらしいブラックライトに色付き電球が眩しくさざめき、利用者の脳髄に麻酔薬をぶち込む。選曲を自分の好みに合わせるのは簡単でも、居心地の悪さは折り紙付きの病室じゃ無意味な程に忙しない。煩わしさだけが犇めき合って、まるで高らかな道化の笑い声みたいで苛つくだけだ。それでも、ショートケーキの苺みたいに甘酸っぱいのは苦手なままで、優しい思い出の苺色に嫌気がさして全て投げ捨てたくなった自身の逃げ場等、此処以外には他にない。

お気に入りの歌姫は全てをかなぐり捨てたように声を張り上げた。ついて来いよ、というように、清らかに野蛮な彼女は今この時はオレだけのジャンヌダルクだ。いくら若くたって迷っている暇はないし、無知は無知でも考え無しの決断を下せる程に愚かなわけではない。狡賢く、真っ当な先導者くらい選べる程度には生きていく術を持っているつもりだ。
先導者と共にたった独りのシュプレヒコール、そこに矛盾なんてない。この部屋で歌われる曲はみんなのものであって、「ワタクシ」だけのものだから。

嗚呼、人間って可笑しいよ、罪を憎んで人を憎まずなんて出来もしないことを夢見て、拷問器具を美術品に仕立て上げた。鉄の処女に梨の実、なんてメルヘンチックな妄想に幻想が産み出した嗜好品なのか、大好物の石が詰まった狼のお腹みたいに苦しくて仕方がない。

独りだけのシュプレヒコールは鳴り止まない。罪人の血肉を御護りにするあの瞬間のように、妙に高揚した背徳感が身体一杯に満ち々ちて、世界中の全てに絶望する程楽しい一時へとトリップする。











「、古市っ」


空気を擘く哀れな男の声がする。地上に伸びる白い梯子は赤い光の足止めにあい、横切る鉄塊が虚しいだけの空間に、正義を語る男の誰かを呼ぶ声が響く。安値で買った平穏を容易に吹き飛ばすその声が、狭くて暗くて賑やかなあの部屋以上に反響した。
 
正義なんて不確かなものを振りかざすのはお止めなさい、そんな人工的な音に喉は震えるだけの機能さえ果たさずに、世界を浄化することにしか頭が回らない白いだけの吐息を産む。産み出された吐息は、あの部屋とはまた違う自然な闇に溶けていく。周囲は天の涙を防ぐ彩り豊かな華で賑わい、泪に濡れた黒いアスファルトが更なる闇を呼び、此方の声は届かない。あの部屋と何処が違うのか、今では全く理解らない。


「古市っ、ソコ一歩でも動いてみろ、ブっ飛ばすからなっ」


フルイチって何でしょう、誰でしょう。握り締めたカッターナイフは脳髄が揺れているように軋み、可憐な華には縁のない二つを向き合わせている。軋む刃は赤い光の足止めに憤る正義の叫びにフルイチって何、なにナニ、誰、ダレ、とはしゃぐ幼児のような声を上げた。

まさか、カッターナイフはカッターナイフでしか在り得ない。本当に軋んでいるのは媒介ではなく「ワタクシ」自身でしかない。「ワタクシ」が軋むモノ、「ワタクシ」こそが刃だ。刃である証拠はこの溢れ出る滴、刃が墜ちる様が滝を見立てたモノなんじゃないか、って言われているアレを彷彿とさせるでしょう。

雨足の強まる世界でオーバーラップする英雄像は、かの著名な作家が生み出した走る正義のようだ。雨晒しの泥塗れの、向こう見ずな英雄は未だに気付かないようだ。


ねぇ、今更どうして追いかけてきたんだ、オレを生贄に手に入れたあの娘の幸せとお前自身の正義で、もうその両腕はいっぱいなんだろう。そんな雨晒しの泥塗れになって、荒い呼吸を押し鎮めてまで今更オレが欲しいの。それこそ、今更、だろ。


貴方が必死に追い縋り、護ろうとしている正義も友人も、疾うにこの世界から離脱しておりますので、無駄な抵抗は止め、直ちに投降することを御勧め致します。


「古市っ、オレはお前しか−−−・− −・−・・ −−・−・ ・・ ・−− ・−・ ・−


残念ながら、二次元でしか生きられない英雄像はオーバーヒートにオーバーフローを引き起こしたようです。演算結果が「ワタクシ」の処理能力の範囲を大幅に超えてしまいました。「ワタクシ」は機能回復の為、一時的ではございますが強制的にログアウトを致しますので、次回ログインまでどうぞ御待ち下さい。御利用ありがとうございました。








 
白くて弱くて穢れた手に握られた黒い柄のカッターナイフは、黒くて強くて綺麗な君の首を落とす為のギロチンでした。





















 

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ