真選組は好き放題に暴れているだけだと思われがちだが(あながち間違いではないのが悲しい)実際は事務仕事なんかもしていてただ刀を振るばかりの粗野で馬鹿な集団ではない為、やはり休憩は必要になる。
事務仕事を一手に請け負う某副局長様に至っては、心底休憩が欲しいと感じていた。


「ねぇ、しりとりしよう?」


それだと言うのに、銀髪の男はへらりと力の抜けた笑みを浮かべ、酷く無意味なことを言う。多忙な副局長様は酷く御立腹で、貴重な休憩を潰されてたまるかと目の前の男を一刀両断する。


「…煩い」
「いきます、好き」


なんで始めたの、この天パ、と副局長様は更に御立腹の様子で常日頃より鋭い眼光が増して尖っておいでです。しかし、気分を害したものの、人の良い副局長様は煩いのう、で繋がった会話形式の尻取りなのだな、と思い至り、そっと溜め息を一つ吐くと男の戯れ言に興じられたのでございました。


「嫌い」
「…意地悪だよ。っていうかナレーションクドいよ」
「よくわかってんじゃねェか」
「完全に無視だよ、この子、…可愛くて大好き」
「嫌いだって」


本来ならば放っておけば良いだけの事なのでございましょうが、そこは真選組の頭脳とも呼び名の高い副局長、土方十四郎様で御座いましたから、組の威信をかけて、敢えて尻取りに挑むを崩さないのであります。


「てか、ただの負けず嫌いでしょ。…、天気が良いからデートしない?」
「嫌だからもう放っておいてくれよ」


多忙な副局長様の、貴重な休憩時間が刻々と過ぎてゆきますが、どうにも尻取りは終わりません。副局長様の明晰な頭脳のせいで御座いましょうか、はたまたスチールウールに気遣いの精神が足りぬせいでしょうか。


「…、予約、入っちゃってるの?」


スチールウールってどこ見て言いやがった、と睨んだきつい眼差しは、ふと力が無くなり、弱々しい科白と共に小動物のような瞳で土方を覗き込んでくる。


「暢気な事言ってんじゃねぇよ。俺もう休むからっ」


土方は、仮にも鬼の副長と呼ばれる男だ。目の前の殊勝な様が、無駄に器用な男が作り上げた完全なる人工物の表情だという事くらいは見抜いている。しかし、心を鬼にして立ち上がりかけた土方の制服の袖を、きゅっと掴んで引き止めようとする小動物の瞳継続中の馬鹿げた演技に、本音の欠片が見え隠れしている事も理解っていた。


「、空気読め」

 
休憩を邪魔していることを少し怒っているのだ、と空気でやんわりと伝えてみる。何時も何時も、甘えを許すわけではないのだ、と伝えてみる。


「…、迷惑?俺」


揺らがない銀色に土方は覚悟を決めて息を吐くと、男の胸ぐらを乱暴に掴みたて顔を近付ける。唇は…、掠める程度に留めておいた。いや、それ以上などという非常識さも叙情的な恋愛観も土方が持ち合わせていなかった、と言うのが正しいのだろう。それでも土方自身にすれば必死も必死の行動だ。心中で悪態を吐きながらも頭の芯まで熱い。
絞り出した言葉の意味など考えたくもなかった。


「……れ、連帯責任」


熱に浮かされたような、言い訳のような何処か甘い一言を残して天下の鬼副長は逃げ出した。その背中を追う声がする。


「んがついたから多串君の負けでしょォ?デートしようよォ?」


嗚呼、なんて呑気な男だ、面倒な男だ、と思いながらも断り切れない自分自身が恨めしい土方は、唇を噛み締めぴたりと止まる。


「…、お前の事なんか大嫌いだァァァ」


負け気分を背負いたくない一心で意地で叫び返した。例え、色付いた頬を隠し切ることが出来ていなくとも、負けだけは阻止せねば、と考えての行動ではあったが、しかし、


「愛してるよぉぉぉっ、銀さんはァァァ、土方君がァァァ、大好きですよォォォォっ」


土方が意地を張るには、どうにも相手が悪過ぎる。この男には土方の些細な意地などあってないようなものだ。土方だってそんなこと、とうに理解っている。

空は、快晴。









あぁ…、ちくしょう。また負けた





















 

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