宝物
□僕の世界
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仕事を終え帰宅すると、ピアノの音が聞こえてくる。
音を立てずにそっと部屋を覗けば、楽しそうにピアノを弾く彼がいた。
一曲終えた所で拍手すれば、嬉しそうに振り向いた彼が椅子から飛び降り駆けよってくる。
「おかえり、恭弥兄!」
「ただいま、隼人。いい子にしてたかい?」
「アホか!俺はもうガキじゃねぇっつうの!」
不貞腐れながらも鞄を受け取り書斎に消える彼に笑みが洩れる。
彼は僕を兄と呼ぶが別に兄弟ではない。
僕が卒業した時に知り合いの男が養ってくれと連れてきて以来、僕らは共に暮らしている。
どうやらその男が余計な事を吹き込んだらしいのだが。
初めのうちは彼も借りてきた猫の様に警戒していたが、共に暮らすうちに心を開いてくれた。
それは僕も同じで、面倒だと思っていたのだが彼のそんな姿を見ているうちにそんな気持ちは吹き飛んでいた。
寧ろ今では、彼を中心に僕の世界は回っている。
「今日は恭弥兄の大好きなハンバーグだぜ!」
「ワォ、美味しそうだね。」
二人向かいあって座り、きちんと挨拶をしてから箸を進める。
「美味しいよ、隼人。」
「あ、当たり前だろ!」
少し顔を赤らめて、勢い良く口に運ぶ。
どうして彼はこんなにも可愛いのだろう。
それはきっと、僕が彼に恋をしているからだろう。
この歳になって、こんな子供に惚れるなんて。
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