紫の砂
□欠けた心
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全ては一瞬。
赤い機体を弾き飛ばした白い機体が、連合の放った光に包まれた。
「キラァァ!!」
痛い程の光が収まると形は保っているもののボロボロのフリーダムがあった。
「キラ!」
「アスラン!!貴様、このまま死ぬ気か!!キラを助けたかったら艦を墜とすのが先だろう!」
フリーダムに近付こうとしたアスランにイザークの叱咤が飛んだ。
再び主砲の餌食になる可能性が高い以上、イザークの言う通りに連合の艦を墜とすのが一番安全なのだ。
「速攻で墜とす…!」
「貴様に言われなくても解っている!ディアッカも、ニコルも行けるな!?」
何かに耐えるように、フリーダムから離れ連合の艦隊に向かったアスランにイザークは叫び、ディアッカとニコルに回線を繋いだ。
「ああ!」
「大丈夫です!」
「っ…キラ……」
あの後、連合の戦艦は沈めた。
フリーダムをジャスティスが運び、コックピットから救出したキラを医務室に運んだアスランは、4日経っても未だに意識を取り戻さないキラの手を握りしめ祈るように呟いた。
医務室の扉が開き、見慣れた顔が入ってくる。
「アスラン、キラは?」
柔らかそうなフワフワした髪の彼の問いに首を振ることで答える。
声に出して答えるだけの余裕がない。
キラの華奢な体躯のあちこちに巻かれた白い包帯が痛々しく、普段ならこんな状態のアスランに怒号を飛ばすイザークも流石に今回は黙っていた。
「アスラン、お前も休んだ方が良いんじゃないのか?」
「そうですよ、4日間ずっとキラに付きっぱなしで寝てないじゃないですか」
ディアッカとニコルの自分を心配する言葉にも首を横に振るだけのアスランの表情には疲労の色が濃く出ていた。
「アスラン!貴様いい加減にしろ!そんな顔をしていたらキラが…」
やはり我慢が出来なかったのかイザークが怒鳴るが、その言葉はベッドから聞こえた衣擦れによって最後まで紡がれることはなかった。
紫紺の瞳が覗き宙を泳ぐ。
「キラ!大丈夫か!?」
「アスラ……?良かった…無事で…」
自分の顔を覗きこんで心配するアスランに手を伸ばし、安心したように微笑むキラ。
「無事って、お前……でも、良かった…。」
安心したように力を抜くアスランに後ろから声が掛かった。
「アスラン、貴方だけに良い思いはさせませんよ?さあ、キラを僕に譲って貴方は部屋に行ってて下さい。」
「なっ…何を!」
「ニコルの言うとおりだぜ!キラが好きなのは解るけどな〜」
ニコルからの唐突な言葉に思わず叫んだアスランをディアッカが茶化す。
自分とキラの関係を知っているものの、まだ諦めていない、そんな様子の黒い笑みを浮かべる1つ年下の同僚と明らかに茶化して楽しんでいるもう一人に、更に反論を試みるが…
「キラには、俺とニコルが付いていてやる!だから部屋にとっとと戻れ!」
今度は、冬の雪を思わせる銀髪の同僚が怒鳴る。
キラが目覚め、安心感に満たされた思考回路では返す言葉が直ぐに見つかるわけもなく、グッと押し黙ったアスラン。
そんなアスランの背をニコルが押し医務室から半ば追い出す形になった。
「えっ?オレも?」
「ディアッカは必要ありませんからね」
更には、ディアッカも一緒に医務室から強制退場になり疑問の声を上げた彼に、黒い笑みと共に医務室の扉が閉まった。