【書庫】銀魂小説

□銀魂小説―未来築き編―
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ある程度の人には居場所があり、家族がいて、家があり、自分の居場所がある。
それが当たり前のように人に受け入れられて、人はそれを当然のように慕っていました。
けど、私は違ったのです。


私は当然のように家があり、家族もいました。
けど、私の居場所はありませんでした。
目を開ければ、飛び込んでくるのは狂ったように歪んだ現実で、もとの形を保っていません。
私はこの世界が全てでした。



何故、と問いかけても誰も答えてくれません。
私の世界に住む無数の声は、ひたすら私に訴えかけるだけで、問いには答えてくれません。
目の前にある無垢の闇が当たり前だと思っていました。
ただ何もない事が当たり前だと思っていました。



貴方の世界は、何が広がっていますか?



―壱―
『自分の世界というのは他の人が出入りできない自分だけの世界、それを作るのも壊すのもお前次第。』










「うー、さみぃ!」




銀時は霜焼けで赤くなった手を吐息で温める。
空は鉛色の雲で覆われていて、今にも雨が降ってきそうだった。
銀時の隣で新八は身を委縮させて震えていた。
神楽は空を見上げ、鉛色の空を見上げる。




「今にも雨が降りそうアル。
この寒さなら雪も降るかもしれないネ。」
「雪ィ? 勘弁してくれよ。
まだ十一月だぞ?
嫌、十一月なら十分か……。
雪とかやめろよ、雪かきしなくちゃなんねぇじゃねぇか。」
「まぁ、その時期は雪かきの依頼が結構来たりで、儲かる時期なんですけどね。」
「俺らの寿命が毎回縮むっつぅの!
あー、こういう日はおこただ! こたつだ!
さっさと家帰るぞ!」




銀時は重いレジ袋を両腕にぶら下げながら見えてきた万事屋銀ちゃんに駆け込む。
「待って下さいよ!」と新八も後を追う。
続けて神楽も追おうとしたとき、二階へ上がる階段付近で人影が目に入った。




「――?」



階段の下に身を丸めている人間が一人。
顔は伏せていて、性別も年齢も伺えない。
図体からして、大人ではないだろう。
神楽が声をかけようか迷っていると、頭上から声が降りかかった。



「何してんだ神楽! さっさと家入れ!
そんなところいたら凍えちまうぞ!」
「う、うん……。」



神楽は躊躇するように視線を左右に泳がすと、二階へ向かう階段を上って行った。
















「あー、やっぱりこの時期は暖かいお茶とこたつだわ。」



全身の力が抜けたようにこたつに頬を付けて脱力したように銀時が言う。
隣で新八がお茶を啜っていた。
こたつの中は定春がほとんど占拠しているせいで、こたつの中で足を伸ばせない。
神楽はずっと黙りこみ、湯気の上がる湯呑を凝視している。
その様子に新八が気付き、声をかけた。



「どうしたの、神楽ちゃん?」
「……なんか。
万事屋銀ちゃんに入る前に人がいたアル。」
「人? こんな寒いんだし、大抵の人は用がない限り家で暖取ってるだろ。」
「その人、なんか万事屋に用があったのかな?」
「……わからないアル。
顔は伏せていたし、顔も見てないアル。」



階段の下で自分の存在を消すように体育座りをしていたあの人間。
無性に心の中でもやもやと靄のように居座っている。
窓を叩く雨粒。



「私、様子見てくるアル!」
「あ、おい!」



銀時が何か言っていたが、神楽は聞き逃して階段を降りて行った。





「――ッ!」




下に降り、その光景を見た時には息が止まった。
心臓が高く鳴り響き、声を出しそうにもなった。
階段から足を踏み外してしまいそうになるんじゃないかと思うくらいの勢いで階段を駆け上がり、靴も脱がすに居間に飛びこむ。




「ぎ、ぎ、ぎ、銀ちゃん、大変アル!」
「ど、どうしたの神楽ちゃん!」



蒼白な顔をして飛び込んでくる神楽に何事かと二人は腰を上げる。
神楽の後を追って、銀時と新八も階段を降りていく。




「――!」



二人もその光景を目にした瞬間、硬直した。
……人が、冷たい雨に打たれながら階段の下でうつ伏せに倒れていた。
誰よりも早く動いたのは銀時で、うつ伏せから仰向けに直す。
そして、背中に手を入れて体を起こした。




神楽より少し年上くらいの少女だった。
髪も着物も雨に濡れて恐ろしいほど冷え切っていて、顔色からは血色を感じない。
唇も真っ青だ。
ガチガチと体が小刻みに震えている。
神楽も新八も少女の顔を覗きこむ。



「おい、おい、大丈夫アルか!?」
「………。」



新八はその少女の顔を見て息を呑んだ。
――凄く、奇麗な子。
奇麗という言葉では語れないほどの溜息の出るように奇麗な顔立ち。
妖艶な美しさを持っていた。



「おい、とりあえず二階運ぶぞ!
放っておいたら凍死しちまう!」



銀時が少女を抱き上げ、二階へ上がる。
神楽も後に続いて、新八も遅れて後に続く。
外の雨は一層強くなっていった。




「今から風呂沸かしたらどのくらい掛かる!?」
「えっと、15分くらいです!」
「チッ……15分か!」
「と、とりあえず体温めればいいアルよね!?
ポットの湯頭からぶっかければいいアルか!?」
「馬鹿野郎、火傷で殺すつもりか!
ポットの湯沸いてるか!?
その湯に水を入れて40度ぐらいにしてくれ!
新八、お前は出来るだけ沢山のタオル!」
「銀ちゃん! 40度ってどのくらいかわからないアル!」
「手突っ込んでちょっと熱いくらい!」



てきぱきと銀時が支持を出し、新八はタンスから大量のタオルを持ってくる。
その時、ちょうど神楽はポットの注ぎ口に直接手を当てて湯の温度を確かめていた。
無論、こんなことして無事で済むはずがなく……。




「あっつぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



耳を劈くような悲鳴が万事屋に響き渡った。



「何してんだテメェェェェェェェェ!!
こんな時にボケる必要ねぇよ!」
「皮が、皮が捲れてるアルゥゥゥゥゥゥゥゥ!
あ、そっか、冷やすんだぁ!」


と、水道の蛇口から豪快に溢れるように流れる冷水に直接手を冷やす。



「馬鹿野郎ゥゥゥゥゥゥゥ!!
んなことしたら皮膚が剥がれっちまうじゃねぇかァァァァァァァ!!」
「んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
べろんて、べろんて皮膚が剥がれたアル!」
「か、神楽ちゃんんんんんんん!!
えっと、火傷の時は……氷、氷!」
「ああ、もう!
新八! お前は神楽の火傷の手当て!
俺はこいつやるから!」



と、階段の下で倒れていた少女を抱き上げ、風呂場に飛びこむ。
新八が氷を袋に詰めていると、神楽が血相を変えて風呂場に飛びこんでいく。




「か、神楽ちゃん!?」
「駄目アル! 
あのエロ野郎にあの子任せておいたら服剥かれて性欲を満たす対象になってしまうヨ!」




新八も袋を持ったまま風呂場に向かおうとすると、顔面に神楽の飛び蹴りが炸裂する。
「来るな思春期代表ゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
あれだろ、お前もあの子の裸見たさに風呂場行くんだろ!?
その裸見てオナ……」
「だぁぁぁぁぁぁ、それ以上言っちゃ駄目ェェェェェェェェ!!」
「股間に毛が生え始めた頃から男は皆獣(けだもの)なんじゃァァァァァァァ!!」


と、神楽は風呂場に飛びこんでいった。



「こんの変態野郎ゥゥゥゥゥゥゥ!!
その子をどうするつもりアルかァァァァァァァ!!」


脱衣所に置かれている着物と帯。
神楽の中で火山が噴火するように怒りが込み上げてきたのを自分でも感じた。
バン、と浴室の開いた音が腹に響くぐらいの勢いで扉を開ける。




「か、かぐっ……」
「この天パ野郎ゥゥゥゥゥ!!」



と、少女の姿を見た瞬間、振り上げた拳が止まる。
少女はちゃんと衣服を纏っていた。
肌襦袢(はだじゅばん)を体に一枚、ちゃんと羽織っている。
その状態で湯船に浸けていた。



「何、俺が完全に服脱がせてると思ったの?
おいおい、俺が年頃の女の子にそんなことすると思う?」
「……おい、この天パ。」
「あ?」
「よぉく、歯喰いしばれ。」



肌襦袢はあくまでも下着であり、白い生地をしている。
到底、水に濡れれば透ける訳で。
少女の体の至る所が透け、白い肌を映し出していた。




「この変態野郎ゥゥゥゥゥゥ!!」
「ぶふぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」



神楽の顎の下から飛び込んできた拳によって、銀時の体が上に付きあがり、頭が天井と合体する。
神楽は見境なく少女と一緒に湯船につかり、少女の頭を桶でお湯をかけた。
外で見た時よりは血色がよくなっているのがわかる。



「この子は……絶対に助けるアル。」



そう呟いた声は真意の籠った声だった。
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