短編小説U

□惚れ薬
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『いい物やるよ、あんたぐらいの年だと、好きな男ぐらいいるだろ?』


何でも、くれる物は貰う主義の自分だが、これ程貰ってどうしようか悩んだ物は、今まで無かった。





「…うーん、どうするアルか…」


神楽は手の中にある、飴玉のような包みを見つめる。

かれこれ1時間も、公園のベンチに座り込み、同じセリフを繰り返していた。


「捨てるのも勿体無いし…、あーもう!!どうすればいいネ!」

叫びながら、ワシワシと頭を掻くと、また、手の中の物を見つめる。

神楽はため息を付くと、先程のお登勢との会話を思い返した。



『惚れ薬?何アルかそれ?』


『まあ、要は強制的に相手に好きになって貰う薬さ、コレは飲んでから初めてみた相手を、好きになるらしいよ』


1時間前、遊びに行こうと万屋を出た神楽は、バッタリ会ったお登勢に呼ばれて、『あげるよ』と、この小さな包み紙に入った物を渡された。

好きな相手も居ないし、要らないと断ったが、キャサリンや他の奴らにやったって、ロクな事に使わないからと、半ば無理やり押し付けられてしまった。


『効果は1日だけ、良く考えて使いなよ』


妙に楽しそうなお登勢に見送られ、神楽は頭を抱えながら公園へ向かい、今に至る。

考え過ぎて、逆にイライラして来た時に、頭の中で良からぬ企みが閃いた。


(真面目に考えるからいけないネ!誰かに飲ませて、裏でコッソリ観察するのも楽しそうアル!)


自分の思い付きに、思わずニヤニヤしていると、前方から黒い影が、ゆっくりと近づいて来た。


隊服姿の沖田は、ニヤついている神楽を一瞥すると、イヤホンを出し、少し離れた場所にあるベンチに座り込んだ。


「…おい、何でわざわざこっちに来るネ!」


「………」


話し掛ける神楽を無視し、沖田は目を閉じながら、イヤホンから流れる音に耳を預ける。


無視するとはいい度胸ネ!


神楽は立ち上がると、沖田の目の前に立ち、イヤホンを引っこ抜いた。


「おいコラァ!この神楽様を無視するとはいい度胸ネ!この公園は歌舞伎町の女王である神楽様の物アル!座りたければ、酢昆布5箱上納するヨロシ!」


「なにすんでィ、ちょっ…引っ張んな、イヤホン切れるだろィ」


グイグイと、イヤホンを引っ張る神楽の手を、沖田は迷惑そうに払う。

その拍子に、神楽が手に持っていた薬がポロッと落ちてしまった。


「あーっ!ど、どこに落ちたアルか!?」


慌てて探し出すが、神楽が見つけるのより先に、沖田が足元に落ちている薬を拾い上げた。


「おら、これだろィ?何でィ、タダの飴玉じゃねぇか」


余りに必死な顔だったので、何を落としたのかと思ったら、タダの飴玉…どんだけ貧乏なんだ…。


「むっ…、タダの飴玉じゃ無いアル!これは…」


自慢してやろうと『惚れ薬』の事を話しかけるが、コイツに知られると、ロクな事になりそうに無い…、神楽は話しの途中で自らの口を塞いだ。


「これは…、なんでィ?飴玉じゃねぇのか?」


「…な、何でも無いアル、タダの飴玉ヨ、ほ、ほらっ、返すアル!」





沖田は立ち上がると、手にした飴玉らしき物、の包み紙を開ける。


「あー!何勝手に開けてるネ!返すアル」


ピョンピョンと、飛び上がって取り返そうとする神楽を片手で押さえつけながら、沖田は空いている方の手で、袋から出した物を見た。



「がえずアルっ!」


顔を押さえつけられて、必死の形相の神楽を見て、沖田はニヤリと笑うと、その薬を自らの口に放り込んだ。


「ぎゃあァァァ!飲んだアル!は、吐き出せっ…いや、その前に私を見るなあぁぁ!」


片方の手で自分の顔を隠しながら、神楽は沖田の襟を掴み、ブンブンと揺さぶる。
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