短編小説T

□罰ゲーム
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昼下がりの公園で、勤務中だった沖田はアイマスクを取り出し、寝る準備を始めていた。

心地良い秋の日差しが、黒い隊服を温めすぐ眠気が訪れる。そこにゆっくりと紫色の傘が近づいて行った。

…ばれてないアルな、神楽はそーっと沖田のアイマスクに手を伸ばした。

「…何してんでィ」

「ぬぉあっ!」
神楽は出していた手を慌てて引っ込める。

沖田はアイマスクをずらして起き上がると、神楽を見上げた。
「なんでぃチャイナか、こっちは勤務中で忙しいんでぃ、用がねーならサッサと行きなァ」
しっしっと、手を振る。
「サボリが何言ってるネ、チッ、バレたら仕方無いネ…、おい、その変なアイマスク、この工場長に寄越すアル!」

神楽は沖田に向かい、手をだす。沖田は無言で懐に手を入れると、ガシャンと神楽の手に手錠を掛けた。
「はい恐喝容疑で逮捕ー、警察脅すなんざいい度胸だぜィ」
沖田があざ笑う。

「な、何するアルか!」
神楽は自分の手に嵌められた手錠をブンブンと振る。

「こっちのセリフでィ、ったく人の睡眠邪魔しておいて、アイマスク寄越せなんざ一体どんな了見でぃ」

ぐっ…、と神楽は押し黙る。
「…言わねぇと鍵外してやらねーぞ、まぁ俺はそれでもいいがねィ」
沖田は手錠の鍵をクルクル回しながら、神楽を見た。

うーっと、神楽は唸ると、ボソッと「…よっちゃんに渡すネ」と言った。
「よっちゃん?」
あぁと、沖田は神楽が普段良く遊んでいた子供を思い浮かべた、何度か神楽がその子をよっちゃんと呼んでいたのを思い出す。
「何でよっちゃんじゃなくて、アンタが来たんでィ?」

神楽はいいにくそうに口を開いた。
「じゃんけんで負けたアル…罰ゲームで、お前のアイマスク持って来ることになってるネ」
沖田が公園に来る少し前、神楽はよっちゃん達とじゃんけん大会をしており、神楽は最下位に終わった。
優勝者は最下位に何でも命令出来るという決まりだったので、優勝者のよっちゃんは神楽に沖田のアイマスクを持って来るように命令をしたのだ。
「あのいつもサボっている警官のアイマスク、気味が悪いんだけど気になってたんだよなー、何か、一回見ると目が離せないんだよ」
無論神楽は抗議したが、所詮負け犬の言う事、呆気なく却下された。

「ふーん、そんなんで巻き込まれちゃ、こっちはいい迷惑でィ」
沖田は神楽の手錠を外すと、不機嫌そうに言い放つ
しょぼんとする神楽を見て、でも、と沖田は続ける
「条件によっちゃあコレ、やってもいいぜぃ」
神楽の目の前にアイマスクをぶら下げる。

神楽は目をキラキラさせ、「本当アルか!?」と期待感に満ちた顔を向ける。

「あぁ、俺の言う事一つ聞くならな、安いもんだろぃ?」
沖田はドS全開の顔で笑いかけた、神楽は物凄く嫌そうな顔をし、絶対ロクでも無い結果になると思った。
でも約束は約束、子供のゲームとは言え破るわけにはいかない。

「…分かったアル…」
この世の終わりのような顔をして、神楽は了解した。

沖田はしばらく考えて、んじゃぁ目つぶれと言った。

神楽は嫌な予感をビシビシ感じながら、ギュッと目を瞑る。殴られるか、はたまたデコピンか…ビクビクしていると、おでこにビシッと衝撃が走る、やはりデコピンかと思うと、その後すぐやわらかい感触が額を掠めた。

驚いて目を開けると、神楽の頭にひらりとアイマスクが落ちてきた。

既に神楽に背を向けていた沖田に、「今、何したアルか!」と顔を真っ赤にした神楽が叫ぶ、
沖田は振り向き、「罰ゲームでさァ」とニヤリと笑った。

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