短編小説T

□暗闇散歩
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暗闇の中で、神楽は目を開けた。襖の扉はきっちり閉められ、少しの明かりも入って来ない、銀時も今日は早めに寝たようで、辺りはとても静かだ。
寝るには最適のこの環境、だが眠れない、毛ほども眠くない。神楽は布団を足で跳ね退け、襖を勢いよく開けた。
「さすがにもう銀ちゃんは起こせないアルな」
前回の眠れない夜、銀時に散々迷惑を掛けたせいで、サブちゃんのテープを聞ける唯一のラジカセを失ってしまった。
不眠に付き合わた代償は大きかった…。

このまま布団に入ってても眠気は来ないし、万屋に居てもする事がない。少し散歩をすればそのうち眠くなるだろうと、神楽はパジャマ姿にサンダルで、夜の歌舞伎町へと繰り出した。

ピピー
深夜の歌舞伎町に、場違いな笛の音が響く。
「はーい、止まって止まって」まったくやる気がなさそうな態度で、沖田は自転車を止め、道の脇に誘導する。
「ワリィねぇ、兄ちゃん。犯罪予防強化月間で、ちょっと手荷物調べさせて貰うぜィ」
「ちょっと、やめ…」
持ち主が止める間もなく、ガサガサと、籠に入っていた袋を覗く、
「おっ、エロ本か?これ、エロ本じゃね?」
先程のやる気のなさから一変、嬉々として中の本を漁り出す。それまで交通整理をしていた土方が、半泣き状態の男の声に気付き、沖田に近寄る。
「いい加減にしねぇか総悟、おい、あんたもう行ってもいいぞ」男は袋を受け取ると、もの凄い速さで自転車を漕いで行った。
「チッ、余計な事しやがって、死ね土方」
沖田がぼそっと呟く。
「おい!聞こえてんだよ!!つか総悟、あれは自分がエロ本みてぇだけだろ!ちゃんと周り見て仕事しろ!!」
土方が怒鳴ると、沖田は「周りねぇ」と、ぐるっと辺りを見回す。ふと一点に目をやるとスタスタ歩き出した。
「ちょっ…おい!総悟!どこに行くんだ!?」
叫ぶ土方をよそに、沖田の歩みは止まらない。自動販売機の裏に隠れている人影を見つけると歩みを早め、その腕を掴んだ。
「チャイナゲーッツ」
サド王子がニヤリと微笑んだ。


神楽は当ても無く、裏道をプラプラしていた、夜の空気は好きだが、歩けばその分腹が減る。そろそろ帰るかと、脇道に入ると、何やら騒がしい、自動販売機の影からこっそり覗くと、税金泥棒、もとい、真選組が検問を行っていた。何人か見知った顔もおり、その中にエロ本を連呼する見慣れたサド野郎もいた、
正直関わりたくない。神楽がこっそり自動販売機から移動しようとすると、
土方と話していた沖田が、急に周りを見回した。ヤバい、気付かれた!?神楽は自販機の奥に隠れるが、沖田は迷わずこちらに向かってくる。
神楽は慌てて逃げようとするが、いつの間にか逃げ場は塞がれ、がっちり腕を掴まれてしまった…。
「チャイナゲーッツ」
沖田の声が歌舞伎町に静かに響いた。

「で?一人で散歩してたっていうのか?こんな遅くに?」
土方はタバコの煙りを吐き出すと、神楽に目を向ける。
「そう言ってるアル、眠れないから散歩していただけネ、まったくいい迷惑アル、こんなむさ苦しい所に連れてこられて」
神楽はブチブチと文句をいいながら、お茶漬けを啜る。
これで35杯目だ、いい加減泣きたくなる。
神楽は真選組の取り調べ室にいた、未成年で夜に出歩き、見つかりそうになり隠れる、やましい事があるから隠れるんでさァと、神楽を逮捕したのは沖田だった。
土方は最初から、神楽が嘘を言ってるとは思っておらず、逮捕には否定的だったが、沖田が妙に粘り、その結果、腹が減ったと騒ぐ神楽に、今大量の米が消費されていっている。
「もう帰ってくれ…送ってくから」
土方はげんなりしながら、呟いた。


「無駄に広くて分かり辛いアル」
神楽は真選組の沖田の部屋を探していた。土方にお前を連れて来たのは沖田だから、責任持って送って貰えと言われたのだ。
別に一人でも帰れたが、お腹が一杯になり、気を抜くと寝てしまいそうになる、相手が自分を逮捕したサドであっても、車の誘惑には勝てなかった。

しばらくして神楽は目的の部屋を見つけると、ノックもせず勝手に入った。
生憎沖田はおらず、殺風景な部屋には、小さい机しか目立つ家具は無かった、アチコチ部屋を物色するが、エロ本の一つも見つからず、神楽はついうとうと、と寝てしまった。

外から戻った沖田は、自分の部屋に見慣れたピンクの頭が寝て居るのを見つけた。
てっきり土方さん辺りが送って行ったかと思ってたが…。
沖田は神楽に近寄ると、柔らかい髪をゆっくり梳き、その寝顔を見つめていた。
しばらくして、月の光で青白く浮かぶ頬に、そっと手をあてると、油性ペンを出し、落書きをし出した。一通り終わると、起こさないようにそっと抱え上げ、そのまま万屋まで送って行った。


翌朝、銀時の大笑いで目覚めた神楽は、中々落ちない顔の汚れに苦戦していた。
一通り笑い終わった銀時が、沖田に対して今にも殺しに行きそうな神楽を抑え、昨日の話しを聞き出した。
銀時は、話しを聞き終えると、
「お前、昨日は逮捕されて良かったんじゃねーか」
と、寝ころがりながらTVを付ける。
「冗談じゃないアル、そりゃお茶漬け食べられたのは良かったけど、逮捕に加え、乙女の顔に落書きまでされて、とんだ屈辱ネ!」
憤る神楽に、銀時は「ほれ、これみろ」と、ニュースを見せる。
結野アナが歌舞伎町の、ちょうど昨日真選組が検問をやっていた所で、ニュースを読んでいる。「子供ばかりを狙った連続殺人犯が、昨夜真選組に逮捕されたようです。調べによりますと犯人は、夜間、家出中の女の子ばかり狙い、最新の麻酔薬を使い眠らせた後、犯行に及んでおり…」

「…これって…」
呆然と神楽は呟く、
「まぁ、普通の犯人ならお前だったらすぐやれるだろうが、今回はえげつない薬使う奴だったらしいな、あの総次郎君も考えたんじゃねーの?」

ふわぁと欠伸しながら、ジャンプを手に取る、

TVでは、警察によると、検問の際に見つかった大量の児童ポルノ雑誌と、その間に小型の麻酔銃が見つかり…と言う話しと共に、犯人を逮捕した警察官、もとい、沖田が面倒くさそうにインタビューに答えていた。


「殴り込みに行くついでに、礼も言っとけ」

すでに神楽は玄関先で靴を履きながら、
「おう!!ボコボコにした後な!」
と元気よく言うと、万屋を飛び出していった。

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