長編小説

□柔らかい檻
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気が付いたら好きになっていた。銀ちゃんさえ居てくれたら何もいらない、何も望まない、側に居られるだけでいい…。

だからこの気持ちは誰にも気付かれないように、心の奥に隠した。


「今日は久しぶりにすき焼きにすっか、寒くなって来たしな」
「キャッホー!やったアル!!牛肉は乳臭いから、豚肉でいいアルヨ」

「当たり前だろボケ、うちを破綻させる気か?」

お前は食い過ぎるんだよ、と言いながら、二人はスーパーに入って行く、食材を購入して店を出ると、空はもう暗くなっていた。

「最近は日が落ちるのが早いアル」

そういやぁ、と銀時は頭を掻くと、

「今の時期の夕日をつるべおとしって言うんだと、お妙がこの間言ってたわ……あ、ついでだからアイツ等も飯呼ぶか?」

「…そ、そうアルな」

銀時の言葉に、小さく心臓が軋む。神楽は無理やり笑顔を作ると、何でもないように答えた。
「じゃあ帰りに寄ってくかー」
「…あ、私昼間に公園で落とし物しちゃったから、少し寄ってから行くネ、銀ちゃん先行っててョ」

「はあ?何落としたんだよ?こんな暗いのに見つかるかぁ?明日にすりゃいいじゃねーか」

「神楽様の目を舐めるんじゃないネ、本気出せばビームも出る気がするアル!すぐ行くから早く行けョ」

神楽はシッシッと、追い払うように手を振る。

「しゃーねーな、早く来いよ?」

神楽は手を振ると、公園に向かって一気に走り出した。



「真っ暗アル」

公園は誰もおらず、神楽は近くのベンチに座り込む。忘れ物なんか嘘…ただ銀時がお妙と一緒に居るのを見るのが辛かった。
「気持ちが落ち着いたら行かなくちゃ…」

はぁ…、小さくため息を付く。気持ちを隠すって決めたのに、こんな小さな事で心がざわめく自分が、物凄く嫌だった。

ザッザッ…

しばらくして神楽に向かって足音が近づいて来る、顔を上げると、両手をポケットに突っ込んだ沖田が目の前に居た。

「こんな暗い中なにしてんでィ、旦那は一緒じゃねぇのか?」
「…余計なお世話ネ、あっち行くヨロシ」

神楽は話し掛けて来る沖田を睨み付けながら、身体を固くする。

「機嫌悪ィな、さっきはあんなに機嫌良さそうだったじゃねぇか…もっとも旦那の前だったからかィ?」

「……な、いつ見てたネ…」

言葉に怒りが混じる。

「さっき、偶然だけどな、二人で買い物袋引っさげて嬉しそうに歩いてたじゃねぇかィ、…旦那も良くやるねぇ、自分に惚れてる女と、その気もねぇのに良く一緒に住めるもんでィ」

一気に神楽の顔が強張る。

「それとも何か?まだ気付いてねぇのかね?」

沖田が暗く笑う。

「わ、私が誰を好きだろうが、お前には関係無いアル!!」

「ああ、関係無ないね、だが旦那がお前の気持ちを知ったらどうかねぇ、今まで通り一緒には居られねぇだろうな」

沖田は笑いながら神楽の瞳を覗き込む。
その瞳に動揺の色を確認すると、暗い笑みを一層深めた。

「壊してやろうかィ?」

「…っ…!?、だ、ダメアル!!それだけは…」

神楽は立ち上がると、沖田に詰め寄る。

大事に隠していた想いを、大嫌いな奴に暴かれてしまった…、どうしてバレた?…銀ちゃんには絶対に知られたくない…、色々な事が頭を回り、もうぐちゃぐちゃだ。

「バラさないで欲しいかィ?」
神楽は必死に頷く。

「じゃあ、取引と行こうか…、そうだねィ…あんたに俺の奴隷になってもらおうかねィ」

その一言で、神楽の頭が冷静になる。

「…はあ?、何言ってるネ!そんなの誰が引き受けるアルか!」

神楽は怒鳴ると、沖田に掴み掛かる、

「そんな態度でいいのかィ?」
「調子乗るんじゃないョ、お前をボコボコにして口封じてやるネ!それに良く考えたら、お前の言うこと何て銀ちゃん信じる訳無いネ!」

勝ち誇ったように神楽が笑うと、沖田は懐から携帯を取り出した。

「最近の携帯は機能が良くてねぇ、あんたとの会話、バッチリとれてるぜィ」

神楽の顔から血の気が引く。

「どうする?話し飲むかィ?」
携帯を目の前ぶら下げながら問い掛けてくる。

神楽は唇を白くなる程噛むと、小さく頷いた。

沖田はそんな神楽を見ると、満足そうに笑った。
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