過去の拍手文
□赤ずきん
1ページ/1ページ
さぁ赤ずきん、こっちへおいで?
『赤ずきん』
「はい、じゃあこれをおばあちゃんに届けてね」
新八母さんは、ニッコリ微笑むと、食べ物の沢山入った篭を、赤ずきんに渡しました。
「分かったアル!銀ばあちゃんの所に急いで届けるヨ!」
「いや、別に急が無くてもいいのよ?むしろ、森には狼が出るんだから、注意して…「じゃあ行って来るネ!」
「ちょっ!赤ずきんちゃん!」
赤ずきんちゃんは、家を出ると、もの凄い速さで森に向かって走って行きました。
ですが、しばらく進むと、走り過ぎたのかお腹が空いてきました。
「腹が減ったネ…」
足を止め、ちらりと持っている篭を覗きます。
「銀ばあちゃんには悪いアルが…、ちょっとだけ…」
篭から大きなパンを出すと、一気に被りつきました。もりもり食べていると、その匂いに釣られて、一匹の狼がふらりと現れました。
「よぉ、うまそうだねィ」
「…誰アルか?」
「世間では、狼って呼ばれてるもんでさァ」
赤ずきんちゃんは首を傾げます。
(狼って、確か狂暴で、恐いって言ってたけど…)
細い身体に、整った顔立ち、お腹が空いているのか、自分をじっと見て来る姿は、とても噂に聞く狼には見えませんでした。
「お前、腹が減ってるアルか?」
一瞬、狼の目が鋭く光ります。
「ああ、とてもなァ」
赤ずきんちゃんは、自分の持っている食べかけのパンを、涎を垂らしながらジッと見つめると、ぐいっと狼に差し出しました。
「…やるアル、こっちの篭は、ばあちゃんにやらなきゃいけないからダメアルが、これならいいヨ」
狼は、差し出されたパンと赤ずきんちゃんを、不思議そうに見ました。
「…俺の噂知ってんだろィ?何で逃げないんでィ」
「腹が減るの程辛い事は無いネ、いいから食えヨ」
「面白い奴」
狼はパンを受け取ると、しばらく二人は仲良く話しをしました。そして、狼はパンのお礼に、綺麗なお花畑を教えてくれました。
「おおぅ!綺麗アル!ありがとうネ!」
赤ずきんちゃんが振り返ると、もうそこには狼は居ませんでした。
(行っちゃったアルか…)
何となく物悲しい気持ちで花を摘むと、赤ずきんちゃんは気持ちを切り替え、おばあちゃんちへと向かいました。
「…旦那、暇そうですねィ」
「旦那じゃねぇよ、おばあちゃんですー、何の用だよ沖田君」
そうです、狼は赤ずきんちゃんが花畑にいる間に、おばあちゃんの所へと行っていたのです。
おばあちゃんは読みかけのジャンプを置くと、狼に向き直りました。
「今は狼でさァ、そうそう、あんたの所の赤ずきん、森でニコチン狼にマヨネーズ食わされてましたぜィ」
「…マジで?」
「マジでさァ」
「……あのバカ…、あれだけ変な奴には付いて行くなって言ったのに…」
おばあさんは舌打ちして、ベッドから飛び起きると物凄い速さで家を飛び出して行ってしまいました。
「単純」
狼は肩を竦めると、おばあさんが寝ていた布団に潜り込みました。
しばらくすると、赤ずきんちゃんが家に入って来ました。
「銀ばあちゃん、入るアルよ」
何の疑いもなく、ベッドに近寄る赤ずきんちゃん。ふと、布団からはみ出ている髪に違和感を感じます。
「あれ?銀ばあちゃん、いつの間にストレートパーマかけたアルか?」
「…それは、赤ずきんが来るからねィ、イメチェンでストレートにしたんでさァ」
「ふーん、良くあんな根性入った頭ストレートに出来たアルな。あ、おばあちゃん、何か肌が若くなってるアル」
「それは、赤ずきんに触ると、おばあちゃんも若さを貰えるからでさァ」
おばあちゃんの両手が、赤ずきんちゃんの頬に触れます。
「おばあちゃん、何か手が大きくなったアルか?」
「それは…」
「えっ?うわっ!?」
ぐいっと、赤ずきんちゃんは引っ張られ、ベッドに組み敷かれてしまいました。
「な、なっ!お前は…狼!」
狼は赤ずきんちゃんの髪を掬うと、そっと口づけました。
「あんたの身体に余す所無く、触れる為でさァ」
「なっ!何言って!あ、おばあちゃんは…」
「こんな時に、他の男の話しなんざ、野望じゃねぇ?」
『誰が野暮かなあー?』
突如響いたその声に、ビシッと、狼の動きが固まりました。
「ねぇ沖田君、誰が野暮なのかなぁー」
「…旦那…、早いお帰りで…」
「…おい、俺も居るぞ」
おばあさんの隣には、マヨネーズの銃を持った猟師が立っていました。
「チッ、相打ちにならなかったか…」
「やっぱりそれが狙いかぁぁぁ!!」
「神楽はやらねーぞ!!」
二人からの一斉攻撃を受け、狼は逃げて行きました。二人には爆弾、赤ずきんちゃんには、小さなキスを残して。
「行っちゃったアルなァ…」
赤ずきんちゃんは、狼と、それを追う二人の後ろ姿をぼんやりと眺めました。
『今度は、さらいに来らァ、首洗って待ってな』
頬へのキスと共に、残された言葉。赤ずきんちゃんは照れ臭そうに微笑むと、小さな声で呟きました。
『待ってるアル』