短編小説U
□泣きたくなったら
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何時からなんだろ、泣き叫びたいのに、それが出来なくなったのは。
「んじゃ、行ってくるわ」
「へいへい、精 々振られ無いように気を付けるアル」
「…ったく、うっせーよ分かってるっつーの」
ボリボリと、照れくさそうに頭を掻く反対の手に、その姿からは違和感の塊でしかない乙女チックにラッピングされた小さい箱が覗く。
不意にチクリと、胸に小さなトゲが刺さったように心がいたんだ。
「頑張れヨー」
絞り出すように言った言葉に、銀時はヘラリと笑うと、小さく手を上げ万屋の玄関から外へと出て行った。
「プロポーズ…か」
ふわりと長い黒髪を揺らし、柔かく笑う女性が浮かぶ。
銀時と二人が並ぶ姿を想像するが、明らかに男が浮いていた。
「銀ちゃんには勿体ないネ」
無理やりにでも茶化そうとしたが、頭の中の二人は、とても幸せそうに笑っていた。
二人とも大好きだから、上手く行って欲しい、でも、何故だか心がチクチクする。
神楽はそっと、心臓に手を当てた。
「何だか分からないアル」
モヤモヤした感情が、ずっと取れない。
それが、不愉快で仕方なくて思わず顔をしかめていると、不意に万屋の電話が鳴り出した。
「ハイヨ、万屋ですヨ」
「あ?その声はチャイナか?」
受話器から、神経を逆撫でするような感情のこもらない声が響く。
「…どちら様アルか?」
「沖田でさぁ、分かってんだろ」
声を聞いただけで相手は分かった
が、神楽はわざと空っ惚ける。
「沖田ぁ?知らないアルなぁ、知らない相手とは話しちゃいけないって、銀ちゃんから脇が酸っぱくなるほど言われてるネ、じゃあな」
「まてコラ、旦那は居るかぃ?」
「居ないアル、残念だったナ」
さっさと切りたい神楽は、そう言い捨てると、電話を勢いよく切った。
「ああ、本当にいねぇみたいだな」
「!!」
不意に後ろから聞こえた声に振り返ると、さっきまで電話していた相手が携帯を片手にいつの間にか神楽の後ろに立っていた。
「な、何ふほーにしんにんうしてるアルか!」
「不法侵入な」
沖田は持っていた携帯をズボンのポケットにしまうと、代わりに反対側のポケットから小さい包みを取り出した。
「ほれ」
無造作に放り投げられた包みを、神楽は無意識に受けとった。
「…何アルか…?」
意味が分からず、投げた本人と、投げられた可愛らしい包みを交互に見つめる。
「それ、旦那の婚約指輪」
「………………………!!!」
無表情で答えた沖田の言葉に、意味が分かった神楽の表情が一気に固まった。
「…何で……!」
非難と、疑問の混じった瞳。
沖田は口元だけ微笑むと、弛く神楽を睨んだ。
「何で…、ねぇ?まさか、俺が盗んだとでも思ってるのかイ?」
「………」
…あり得過ぎる。
言葉にしなくても視線で分かったのか、沖田は神楽の視線を受け小さく肩をすくめた。