BOOK(ドラズ)

□Chocolateにとろけて
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キッチンから甘い香りがただよっている。
どら焼きとは違う、もっとこっくりと濃厚な匂いが、キッドの鼻孔をくすぐる。

恋人がなにか作ってくれているのだろうか。

「キッド。ホットチョコレート飲む?」

トレーにマグカップを二つ載せて、ドラミがやって来た。

「おう。飲む飲む」

大好物は件の和菓子なキッドだが、甘いものはなんでも好きだ。

ソファーで遠慮なくくつろいでいるキッドの隣に、ドラミはちょこんと腰かけた。
マグカップを両手で包むように持って、ふう、と冷ます。
湯気が顔に当たるのか、長いまつげがやや下向きだ。
マグのふちにそっと口をつけて、ほんの少しだけ含む。

ーーかわいいな……。

無意識に見惚れてしまったことに、キッドは自分で気づいた。
まぎらわせるように、マグをぐいっと傾ける。
自分が猫舌であることを忘れていて、初歩的な失敗をするハメになった。

舌を外に出してちろちろと揺らしてから、改めてゆっくりとすする。

カカオのコクと、まろやかなミルク感。
のどを越し、更に下に滑り落ちて、温かみが全身に広がっていく。

「甘……」

そんなつもりはなかったが、つい声に出てしまった。

「もしかして、甘すぎた?」

ドラミが気遣わしげにきいてきた。

無自覚なのだろうが、そんな風に下から見上げるのも、男心をつつくのだ。

「いや、ちょうどいいぜ」

実際、甘すぎず甘くなさすぎず、キッドの好みぴったりだ。

「よかった!」

ホットチョコレートの湯気と一緒に、彼女の笑顔がふわりと立ちのぼった。

トクリ、と。
心臓にあたるところが音を立てる。

キッドは、顔を隠すようにマグに口をつけた。

ーーやられたぜ……。

温かなチョコレートにとろけそうになる感覚は、案外、心地よかった。



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